群狼―百鬼夜行―
花守たる
数えて六十三。
百鬼家は
生まれた祝いに一本。咲いた呪いに一本。後者は
前者はその果てに新たな刀霊として宿る為に、持ち続ける。
彼が生まれた時も、一本の刀が鍛造された。
けれど結局、彼はそれを持つことはなかった。
契約したのは初代の『椿』……
――どうして彼が自身の魂の宿る先を持たなかったのか。
/
習慣めいた
「ふーっ……」
紫煙を吐き出す。去年とは違い、三月の迫間の夜に虫の声は聞こえない。それでも取り戻した満天の星空と欠けた月。
それだけで、良かった。
いつの頃からか付いた
百鬼の屋敷は人間よりも刀に宿った魂の方が多い。
そして部屋に戻って寝直した。死体のような穏やかさだった。
/
決戦前夜。
迫間区
繋ぐ橋へと進む、中心に
乗物の傍を歩く彼の服だけが白い。頭目である彼が歩いているのならば、その中に入っているのは余程の
「椿様――!」
「
彼を呼ぶ声は悲鳴のようだった。葬列が止まる。
「どうした、作戦は明日だぞ」
「では、ではどうして椿様は、皆様は向かっているの、ですか!」
切れ切れになった呼吸が、喋る合間に整っていく。そんな少女の仕上がりをみて、椿は上々だ、と思った。口には出さない。
「ンなもん、
地続きの古谷・深山間を封鎖し、本命が本丸を落とすまでの時間を稼ぐのが百鬼一門の仕事だ。分断が早ければ早いほど、深山に突入する部隊の生存率は上がる。
その代償が何であるかを、
「ではどうして――! 私を、ッ」
連れて行っては、くれないのか、と。
「じゃあ訊くが律――お前さん、おれの為に死ねるのかい」
問われる覚悟。見慣れた
浮かんだ涙を
「はい」
淀みはなかった。偽りも。
そのはっきりとした
「……そうかい。ンじゃ
歩みが再開される。丸奈川を前に、その歩みの数が倍を数えた。
「おれの為に死ぬようなヤツに用は無ェよ」
――
中心で律を見ている、一際
横被りの狐面。初代の『椿』。
『……
「あァ?」
その
椿は少し考えてから、口を開いた。
それは、ある男の人生観だった。
「……いいかい律。ヒトってのは何も持たずに生まれるわけじゃあない。誰もが生まれた時に、一ツの
人生というモノに於いて、個々人が執る選択肢の良し悪し、善悪はあくまで人間の法である。宗教の多くに『死後の安息を得る為に生前は善行を重ねろ』というものがあるが。椿は天国も地獄も無いことを知っている。
死んだ先を良いモノにできるか、悪いモノにしてしまうか。それは自分で決めることだと。
「お前さん、
それが出来たのなら懸命に死ね、と。
――その人生は、
立ち止まった少女を置いて、百鬼の夜行が橋を渡る。
「っ、置いて……」
絞り出すような少女の願いは。
「いかないで、ください……」
「――悪ィが、おれの鞄はもう詰まっている。
それでも届かない。
/
籠の中身は
八百年、現世に湧き出た〈魔〉を討ち続けた代々の『椿』の成れの果て――数々の
踏み出す一歩。世界が変わる。地の底まで
「ま、同じ
「京都、江戸間は盛り過ぎでは?」
百鬼の
「
紙巻を出す。残りは三本。一本を
「六文は不要だ、
また、その口上は霊魔に対してではなく。
その
討ち取った霊魔の首で野を築く先。
「――悲願を飾る、
存分に生きて死ねと。当主である椿が一門へ対して払う最大限の報酬と命令が、この口上のすべてだった。
「さァ、
霊魔、怪異、妖、怨霊。
その未来に、
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