ストレイ・シープ
努力を
そういう
そうして掴み取った。
【霊境崩壊】は等しく奪い去った。
――これは、だからそれだけの話。
たとえそれが
起こらなければ、きっとそのまま静かに終わっていたのだろう。
/
「あぁ、あぁ!
隊服ではない。花守ではない。少なくとも、号令に応じた正規の。
「あの、花守様ですよね? その
重なる問いに応えない。
……肉体がある。瘴気にどれほど侵されているかは判別が付かないが、生きている。
霊魔が死体を動かしているわけでもない。生ある者の
(――ならば
花守は
一ツは血統。そうなった経緯はさておき、元来が花守としてその力を濃く、永く続けた結果。〈夕京五家〉が代表だ。
もう一ツが、血統に
けれど鞘は無し。後ろ手に組んだ手の中に短刀でも握っているのか――そう
「ッ!?」
「あのっ! これっ!」
戦闘であれば致命的な機の遅れ。反射的に飛び退く梓へ、男はまるで西洋式の
「お土産です。
その瘴気の密度。どれだけ
梓の右手が踊る。男は確信に微笑む。間違いではなかったと。
渡す為に緩められた手から、
「……あれ?」
梓にとっては当然で、彼にとっては意外な結末。
「……あぁ。あぁ!? 成程! これはとんだ失礼を
両手を結んで勢いよく頭を下げる眼前の男に警戒を解けない。かといって
果たして。男の中では結論が出たようだった。
「僕としたことがお恥ずかしい」
顔だけを上げる。浮かんでいるのは照れた笑み。自身の
「刀を
首に価値など見出すわけがない。そもそもにして文明開化から何十年。武士などこの
はぁ、という深いため息の後の深呼吸。
……そこまでを必要とした。百鬼前市岡梓が抱いた違和感と警戒心の答え。
「……本当に浮かれているな、僕は」
「きちんと生きてる人間と半年ぶりに逢えたからって」
あまりにも普通過ぎて。
この――幽世へと変貌している迫間区で。どうして現世の
遅きに失したが、まだ
残った疑問を置き去りに。
「〈
居合、抜刀。
「
その銀色を、ひと呼吸の間に自分の命を奪うであろうその刃を。男は確かに
「――――美しいなぁ」
見届けたうえで、上体を
爪先から背骨まで。梓の身体を寒気が駆け抜ける。反して腹は熱く。
必殺を躱された。それよりも。そんな事実が
いっそ澄み渡るほどに純粋なまでの〈魔〉を。最高速度で放った筈の、視認など一瞬でしかなかった
「もっと、」
その右手に、刃が。
「どうして、」
鞘など無かった筈なのに。
「、
「、貴様が――!」
八年間。共に過ごしたその刀身を、見間違えるわけがない。その神気を他の刀霊と誤ることなどない。
それは主……
抜き放った侭の〈石動〉を
「あ」
/
ぱぁん、と音が聞こえる気がしたほどに。
それは、しゃぼん玉が弾ける
(迫間の霊脈が取り戻された――!)
次いで遠く近くから響き渡る、木枯らしのようで地鳴りのような
「あ」
その、
「夜が明けてしまった。では、失礼します花守様」
唐突に動きを止めたと思えば、オジギソウのようにぺこりと頭を下げて踵を返し、百鬼邸の向こう正面……続く路地裏へと男は消えて行った。
寸での処で間に合わなかった一門の二人が追走しようとするのを、
「追わなくてよろしい。このまま椿様を待ちましょう」
流れ出る血もそのままに、努めて静かに梓が止める。
(あの男……)
一切が読めなかった。その行動
「梓殿、先ずは手当てを」
「っ、お願いします。……警戒を密に。椿様が戻るまでは、」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます