椿と富貴姫
十二年間が彼の人生だとしたなら、その半分以上を彼女と過ごしたことになる。
十年先に色恋を宿す未来を想像できない瞳の少年と、十年先に色を
やがて少年は
……その
ともあれ彼が彼女を抱いたのはその時くらい。あとは花守としての(当時は
いつしか遊女は
/
「
その――明確に死んでいるのに
「……御館様。ふふ、
白手袋越し、感じられない熱を探そうと、頬に触れたそれに添えられる死体の手。
((応えた――!))
それよりも備えの段階で上に在る本能。椿の右手が、
いつでも。違えば終えるように。
山郷初雨の時のような不意は打たれない、と。
情はあった。共に過ごした時間があった。だがそれらは勘定に入らない。
〈
「
それは、椿が十七の頃に聞いたような、曖昧な記憶にある言葉だった。
美しいままの死体は、しあわせな夢を見るように瞳を閉じて、口を開く。
「
それは、花守が関与しない、警察の仕事だ。十九の頃。
「学校、学校。ねぇどんなところ? 若様って友達いるの? アタシ以外で」
十三。
「質屋の旦那がね、
二十二。
「……
二十四。
その
椿は一度瞳を閉じて、富貴姫から視線を流した。
下膳待ちの膳。おそらくは、あの
そして、反転した世界で食事をした。幽世の住人となった。
永遠に、
「……霊脈に向かう。付き合わせて悪かったな、ふたりとも」
離れる男を引き留めるように、けれども力の入らない白い指先が空を切る。
「…………ずるいひと」
「椿様――」
その言葉は、
「いい。毎度のことだ」
彼が顔を見せ、部屋を出ていく度に、押し花のように送られるただの
/
「百鬼様、その、あの」
「なンだよ歯切れ悪ィな」
遊郭街はその目的上、京の都に似て区画が整理されている。異界化していても盤のようにきっちりとした道を、訪れた時のように迷いなく進む椿の背に、
「霊脈を取り戻したら、その……あの方は、」
どうなるのでしょう、と。
「富貴のことか? 幽世が現世に戻るンだ。間違いそうだが、時間なら昼前だぞ」
「跡形もなく消えてくれるだろうさ。アイツに限らず、迫間で魔に堕ちず死んだ連中は。……それより覚悟しておけよ、お嬢さんがた」
その核心に、何も用意していない
深山
それを証明するかのよう。近づくにつれ濃くなる瘴気の向こう側。
彼が『椿』となってから、年に一度は出向いていたその
――生々しくも点々と、
「さァて、
(つばき。鬼ならさっき出た。)
椿
ふたりの少女は絶句して。そんなふたりに、もう一振りの
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