第漆話〈迫間獄楽浄土・凶原大幽郭〉
第二次丸奈奪還戦/壱
迫間へ。
――
日ノ国帝都
この桜路町皇居を中心に展開した夕京市、その五つの大霊脈。
〈
そして――
「そう……つらい役を押し付けちゃったわね、
花守隊本陣。総隊長
「
「いいの、いいの。……
その、六十三という数字を声に出す瞬間。麗華は確かな苦みを覚えた。
「何なりと、総隊長」
顔を上げる青年の瞳からは、
百鬼家の
霊魔へと堕ちた孫の首を落とした鬼に。その、生まれる前から知っていた子に。
せめて
予てから霊境崩壊の爆心地と目され、霊境崩壊以降、丸奈川を越えてその地を踏んだ生者の存在しない、『敵』の本拠地、深山区。そして――
「……迫間家の
――そして、霊境崩壊に際して
「確かに
立ち上がり
掛けるべき言葉を、他に見つけられないまま。
/
廊下を足早に通る椿に、眼鏡をかけた青年が合流する。
「百鬼殿の進言の通りに、
「ああ。土地勘はおれたちの方がある。それに、
返ってきた言葉を受けて青年――花守隊参謀・羽瀬
「それほどですか、迫間は」
「少なくとも、生きてる奴の道理が通じねェ程度にはな。半年前の時点で、だ」
半年。霊境崩壊が起きてから。そして、迫間区が落ち、そこからこの青年と一門が生還してから。
「同時作戦だろ。
「それに?」
「……いいや、自分で言う。じゃあな、参謀殿」
「ええ。百鬼殿もご武運を」
椿はそのまま進む。
春先とはいえ、まだ桜路町の名に
意図せず
「あ、あの、百鬼様……?」
「ン? あぁ
「はい!?」
「奪還できてねェ場所だ。これまでと地獄度合いが違うのも確かだ。だがだからこそ居る。必ずな」
口をついて出たのは、戦局を最重要視するのではなく。
「……
「仇……雪
椿には少女の
去り際、その場に立った侭の少女の頭に手を置いて、椿は己の本分を
/
「私、初めてです、車」
「わ、わたしも……」
迫間区に隣接する
「移動の間くらい休んどけよ二人とも。特に深山のお嬢さんは寝てねェンだから」
「それは百鬼様も同じでしょう」
「椿さまもお休みください」
後部座席から一度に返る二つの声こうして聞くと、まるで姉妹か何かのようだ、と助手席に座る椿は思いながら目を閉じる。
「……言いつけ通りにしたか?」
「食事、ですか。はい……水と、ご飯を少しだけ」
「空腹にも満腹にもするな、と
これから向かう先は、掛け値なしに現世ではない世界。なのにどうしてか、二人の少女はどこか浮足立っているかのようだった。
この二人には何かと共通項が多い。
たとえば。この歳になるまで
「あの、椿さま……」
おずおずと、
「ぁン?」
「その、迫間は、
「どうって……そうさなァ」
小さな夢を見るように。椿は奪われる前の地元を思い出す。
常緑の
それらはやはり椿の思い出であって。端的に迫間区という場所を紹介するのであれば。
「――遊郭街だよ。日ノ国で一番の。ンなもん誰だって知ってっだろ」
「「ゆっっっ」」
音に聞こえし
なんて
椿はいっそ、他人事のように考えた。それきり言葉は交わされず、沈黙の侭に自動車は翁寺を目指して進む。
――朝陽が遠ざかる。やがて差し込む暗闇に追想を閉じて、椿は瞳を開いた。
三月某日、正午前。
山郷と迫間。二つの霊脈で明確に区切られ同居する
冷徹で知られる百鬼椿の顔は……うっそりと。どこか夢のように、笑むのであった。
その顔を、誰にも見せない侭。
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