一輪挿し
――死を直感する。臆病な心臓がどくん、と鳴って。
そのまま、鼓動を
ああ、これは助からないな、と。
「「 」」
こんなにも唐突に、瞬間的に終わるものなのだろうか。耳は既に拾ったモノを音声と認識していない。おかしいな、家族みんなで祖父を看取った時、彼はもう少し緩やかに死んでいったのに。
目は開けている
なるほど、これは死んでいる。ああでも待って欲しい。どうして死んでいるのにこうやって意識が続いているのだろうか。或いはこの状態こそがその、俗に言う死後の世界というヤツなのか。歩いた覚えもなければ、河を渡った覚えもない。真っ黒な視界の中で、けれど自分はどこにも
死んでいる。死んでいる。死んでいる。死んでいるのに。まだ続く。終わっているのに旅立てない。割れた
――瞬間、
「調子に――」
死の確定から数秒しか経っていないにも関わらず失われた体温。冷たい両腕が伸びあがる。
「――乗てんじゃあないよ、この三下ァ!」
自分を
「ほら、
蹴り込んで渡す。戻った視界は暗くてよく見える。花守の死体のせいで百鬼椿の顔は確認できていなかったが、きっと半回転した死体と目が合ったりもしただろう。とくに、どうとでもないことだけれど。
意を汲んだ椿は
「……おい、
「なんだよ落ち花。きちんとできただろ、ボクは」
「全ッッ然できて
「ホントそれ。あーあー陛下の
胸に残った刀を引き抜く……返り血は、仕上げ油のように刃へと貼り付き、滴ることをしなかった。
彼は。
「斉一……?」
脇差を構えた
それは、もしかして、と。
少女の身に起こったような奇跡に
「
その提案。霊魔へと
歩き出す。初動。右手の中で脇差〈
「……あぁ、先行ってろ」
鞘に戻した。道を譲る。斉一は確かな足取りで廊下へと出て行った。
気づけば死体だらけの
その中で椿は、大刀も鞘に戻して空けた手に、今度は
久方ぶりに親友の部屋で吸う煙は、思いのほか苦かった。
「……百鬼様、お煙草は」
「今の状況より
深山杏李の苦言を一息で封殺し、神鷹へと視線を投げた。
「椿、斉一は」
「あぁ、霊魔になった」
「椿は、斉一を」
「あぁ、殺す」
つっても一筋縄にはいかねェだろうけど、と毒づいて。椿は隊服の右腰から鞘を一本外して神鷹へと放った。
(つばき……?)
「神鷹を頼むわ、〈薄氷〉。深山のお嬢さんも、ソイツから離れンじゃねェぞ」
踵を返す。紫煙を引き連れて、椿も庭へと歩いて行く。
「杏李……肩を貸してくれ」
「朝霞様、それは、」
起き上がり、
「頼む。僕は――見届けなきゃ、駄目なんだ」
/
ふたりが外に出ると、月光の下で、ふたりは対峙していた。
囲斉一と向き合う百鬼椿の左手には、大刀〈
本来。歴代の百鬼家当主『椿』は二本を差し、一本だけを使う。
当主が普段差しているもう一本には通常、刀霊が宿っていないからだ。
〈
故に、
『椿の一輪挿し』と。
「気分はどうだ、
「最悪だよ、
「知るかよンなもん」
応酬は常のような口の軽さで。
けれど次には立ち上る瘴気と霊気が冬の花霞邸を更に冷え込ませた。
――囲斉一の踏み込みを皮切りに、
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