窮地
倒れた
――
「あぁすまない。私はな、」
「――お前が」
刃が
「、元凶――!」
問答無用。
神気の
男どころか背後の扉まで両断しかねない、完璧に再現された朝霞神鷹の剣技。それが、
「……悪い子だ、杏李。まだ話は始まってさえいないというのに」
「――――ッ!?」
止められた。左腰から逆手に抜かれた白刃が必殺を否定する。男女の筋力差だけでは説明ができないほど明確に。出力が違う。男は涼やかな笑みを浮かべた侭、杏李へと
「私は
見れば、その血に塗れた隊服は花守のもので。そもそも日ノ国に
「あ、に……?」
予想だにしなかった言葉を受けた杏李は思考に空白を生む。けれど〈無銘〉の
「いや、それはおかしい。深山の長男、名護殿は生来から体が弱く、表に出てこれなかった。それに、」
「……それに、深山家の生き残りは杏李だけのはずだ。当主の
だから、貴方は誰だと瞳で問う。深山家の中で隔離されて育った杏李も、〈夕京五家〉である神鷹も斉一も、男が深山名護を名乗ったところでその顔を見たことが無いのだから。椿にしてもそうだろう。
元夕京五家筆頭・深山家の嫡男は公の場に出たことがない、記録だけの存在だった。けれど実在すればこそ、その妹である七香が朝霞家に嫁ぐという結果が在ったのだ。それが、果たされぬ侭に
男――名護は薄い笑みを
「そう。私はいつ死ぬとも解からぬ身だった。父上はそんな私を
『そうとも、我が担い手よ』
名護の持った
『久しいな、朝霞神鷹。囲斉一。当代の百鬼椿はまだ息があるな? 結構。杏李のこともいつも見ていた、たとえお前からは見えずとも。それは朝霞の当主も同じことだったが。皮肉なことだ。どちらも死の淵に至って
瘴気の沙汰ではない。
名護が歓喜を抑えながら言う。
「私は、神鷹君、君と逆だったんだ。霊力の強さに身体がついていけなかった。だからこそ父上も
「そ、れが……」
この夕京を襲った【霊境崩壊】だとでも言いたいのか。
神鷹の脳裏に
――自身ではなく、自身を取り巻く世界の方が間違っている。
この刀霊は、そう、深山名護に道を示したように……
「……オ、マエが、」
「おや……? ははは、凄いなあ本当に!」
「オマエらが、ウメ公を、
ぎちり、という音は口の中の歯か。それとも鞘の中の
「椿……!」
『まあ聞け滅魔の鬼、その当代よ。これはお前たちにとっても良い話だぞ?』
扉の向こうは暗闇だった。そこからキチキチと
『なにせ世が
『
刀身鋳つぶして納戸の蝶番が似合いぞ、〈生駒〉――!』
――応えたのは、椿が握り締めた侭の
『そう噛み付くなよ
暗闇から再び巨大な瘴気の百足が飛び出る。その数、五。
『そうら馳走してやろう。平らげてみよ、人で無し――!』
「百鬼様!」
「椿……ッ!」
避けられない。斬り伏せられない。それはあまりに濃く、また
百鬼の椿は此処で散れ、という強い意志。椿の躰ごとその魂を喰い尽くさんと迫り来る致命。
――考えるよりも先に、腕が伸びていた。
「…………。君は正しい選択をすると、思っていたんだけれどね」
放たれた五枚の札が中空で
――囲流
「――ねえ、斉一君?」
「…………」
斉一は応えず、瘴気の百足
その
この霊力の高さ。舌を巻くこの技量。術式展開から発動までの速さ。この対応の
凡そ望まれるすべてを持って生まれた彼は、この程度の瘴撃など取るに足らないとでも言いたげにあっけなくそれを防いで見せ。
同時に眉間に深く苦悩の
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