花霞邸襲撃
「……
結局、矛先は
何せ
この少女からしてみれば当然の帰結というものであろう、と。
囲斉一。〈夕京五家〉が一、囲家の嫡男にして
斉一の方は
どちらも周囲が勝手に持ち、幼いふたりに乗せた期待と絶望だ。だが椿は知っている。
勝手に乗せ、勝手に取り上げたその荷を、死に物狂いで取り返した男のことを。
当然と乗せられ、当然だと奪われたその荷を、必死に取り戻そうとしている男のことを。
知らなかったといえば、仮にも夕京を霊的に治める五家の誰もが、斉一の適性の無さについて、その理由に行き当っていなかったことだ。そんなことにすら行き付かないという人間の当たり前を、知らなかった。
椿自身、自分に咎はないと思っている。きっとそれでもまあ、良かったのだ。
平穏なままの
その結界を保ったままでいられたのならば。
【霊境崩壊】などという災禍が起きさえしなければ。
――
たらればを挙げればキリが無い。現状は
朝霞神鷹はこの災厄に立ち向かえるだけの開花をし、崩れた。
囲斉一はこの災厄に立ち向かえるすべを持たないまま、腐った。
それだけの話だ。
「
「なっ……では、他の方々の姿が見えないのは、」
「あァ。もう出払っちまった後だからだよ。手薄になった
「そんな……」
斉一を神鷹の護衛に、というのも認めがたいのだろう。それもある。だが、
「百鬼様と私を欠いて、作戦を実行させようと言うのですか……!」
その選択に、
霊魔に殺され、霊魔に堕ちた花守を間近で見た。
〈
自身で選び取った後も、戦サ場で数多くの霊魔を
いつ堕ちるか定かではない不安定な自分に芽生えた、戦える、戦って役に立てる、という自負心。
それより遥か多くの霊魔の首を落とし続けてきた百鬼椿が、最前線よりも朝霞神鷹を優先させた。
喜ばしいのに、喜べない。歓迎すべきはずだ。杏李にとって取り戻したいのは
暁を、自分とは違い、確りと思い描けているはずなのに。この方は。
「どうして……!」
神鷹と斉一がたじろぐ気配。だが止まるつもりはなかった。理不尽な
その
「はン。まるで
「おれが居ない。オマエが居ない。それがどうした。なンだ、オマエ、他の花守連中のお守でもしてやってるつもりだったのか?」
「っ!」
「お嬢さんが思ってるほど、本職の花守ってのは
続いた言葉は、或いは杏李に向けたものではなかったのかもしれない。
「だいいち、
そこで、言葉は絶えた。
何かを口にしようとする杏李。目を伏せる神鷹。言うだけ言って息を吐く椿。
やがて、他人の作る空気の重さを嫌って斉一が口を開いた。
「……ま、落ち花だもんな百鬼は」
「解かってンなァ囲の
「嫌味なんだけど!?」
「解かってンだよなァ。
瞬間。閉まった扉越しに、その二つは放たれた。
「――――いや。君は正しく君自身を評価すべきだ、百鬼六十三代椿」
言葉と。それより
「「「――!?」」
「ぶ、」
動けたのは椿ただ一人。けれどそれも、
「ご、ぁ……ッッ」
たった半歩。百足と神鷹の間に身を滑らせる
完全なる不意打ち。椿の刀霊〈
『つばき……!』
「椿ッ!?」
――
椿の首の
抜刀
けれど百足は止まらない。椿の身体を貫通し、神鷹に迫る。
この濃度。触れさえすればそれで良い。その絶望。杏李の思考が漂白される中。
「
その絶望すら覆す。
渾身の納刀。
「……うん、やはり此処に来て良かった。神鷹君一人ではなかったのは誤算だったが、結果としては喜ばしい」
声は穏やかに。扉が開く。
杏李の瞳が金色に輝く。〈無銘〉を抜きながら振り返る。斉一も
「やあ、今晩は良い夜だ」
果たして、そこに居たのは。
「――迎えに来たよ、みんな」
三人が知らない、男だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます