額ハ絢爛、ナレド
『――――ハ?』
この瞬間、彼の人生は
周りの大人たちは皆
どうして。
どうしても、手に入らないのだという絶望と。
こんな筈ではなかったのに――同調する。自分以外の誰かの想いを。顔を上げる。
間違えていたのは自分ではない。これまで誰よりも相応しいと自負してきた。周りだってそれを認めていた。だから当たり前に栄光を掴み、誰もがそれを望み、自分自身が望む未来が今日だった筈だ。なのに。なのに。
こんなのは間違いに決まっている。
そこからの四年間は地獄だった。あともう十年もすれば本物の地獄の
ひとりは昔のまま、遠ざかっていった。
もうひとりは。最初から最後まで、自分のことなど気に掛ける瞬間がそもそもなかった。
駆け上がるのは自分の方だった筈だ。なのにもう、追いかけても届かない。追いかけることすら赦されない。
やがて課される不平等な帯刀。幼き日に握った確信の古刀の柄ではない、
こんなものを差したいが為の半生ではなかったというのに。
――格式高い軍服に身を飾り、その
或いは余人どころか本人さえ知れない、それこそが理由なのだと。
解を得ていたのはたったひとり。その人物からすればどうということのない、あまりに当たり前すぎて自分が教えるという選択肢さえ浮かばなかったことが、隔絶に拍車を掛けたのかも、しれない。
/
「
「どうぞ」
と扉越しに応答の声を出したものの、開くことがないまま数秒が過ぎた。
「
やはり
つまり椿は僕が許可を出す出さないに関わらず、いつも通り一拍の間を置いて半ば勝手に扉を開ける筈だった。それがないのはどうしてか。
答えはその直後に向こうから来た。
「なっ
「杏李、と椿……?」
その後ろ。当の椿は両手に紙筒を抱えた侭、何故か上がっていた片足を下したところだった。
……
「蹴破るのは流石に良くないと思うよ、椿」
「未遂だわ」
「まったく……ありがとう、杏李」
「いっいえ……! 私は別に!」
杏李はそそくさと
「と、とりあえず私はお茶を入れて参ります。……百鬼様、くれぐれも朝霞様にご無理をさせないように」
はいよ、と生返事を返す椿と入れ替わって杏李は退室した。
「……ふふ」
「ぁン?」
「いや、杏李があんな風に誰かにきつく当たるのは珍しいと思って。仲良くしてくれているようで嬉しかったんだ」
「猫ッ被りが外じゃなく身内に向いてるのもどうかと思うぜ?
「耳が痛いね。……で、それは?」
ああ、と軽く
「
「
〈
「っつーわけで戦力を加味しての作戦だ。正直不安材料だらけだが。いいか神鷹、前線に出れねェっつーなら知恵を貸せ」
「……私は、止めたのに」
と、杏李がお茶を載せた
「なにも前線を
「まァ、ぶっちゃけちまえばそうだな」
「なら……!」
「だがこいつは朝霞の当主だ」
「……っ」
「椿……」
「お前さんが思ってる以上にこいつの背負ってるモンは重い。それになによりこいつ自身がただ寝ているっつー現状を甘受できる筈も無ェ」
それは、その通りだ。僕もできることなら立ち上がって剣を執りたい。椿のように強い魂が欲しいと
「椿は変わらないなぁ」
素知らぬ顔で緑茶を
不服と言えば、僕の方こそ不服だった。立てないこと。それ以上に……
「杏李、君が出る必要だって、ないんだよ?」
「…………杏李が決めたことですので」
これである。
僕は見ていないが、椿をして杏李の剣術は朝霞神鷹そのものの
「……ま、体力に関しては一朝一夕とは言えねェし。この際身体を鍛えたらどうない、
「そっ! そんなことをしても仕上がるのは何時になるか……先に
「よく解かってるじゃあねェか」
椿は
――椿は変わらないと言ったけれど変わったかな?
あぁ、でもやっぱり変わっていない。
僕の傍では
実際に身体を動かせなくなって、気持ちだけは走り出しそうな僕をこうして慰める手さえ用意して。
朝霞神鷹の再起を信じていてくれることを。
「椿は本当……僕に
「あァ?」
目頭が熱くなるのを誤魔化すように茶を頂く。
「なんだ、美味しいじゃないか。……杏李が難しい顔をして飲んでいたから、渋いのかなって不安になっちゃったよ」
「あっ朝霞様に淹れるお茶に粗相はできません……!」
顔を赤くして抗議(?)してくる杏李に
……陛下も、このようなお気持ちなのだろうか。
同じ場所に立つことができず、ただその無事を願い、
「無茶はしないようにね、二人とも」
「流石、それを
「百鬼様……!」
「……ははっ」
――
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