第陸話〈花霞邸襲撃事件〉
(事前)
師走とはよく言ったもので。年末の多忙さ、そして
虎ノ門事件を皮切りに、統制された霊魔による襲撃。〈山郷決戦〉にて前線花守の二大筆頭の一、
同じく五家、
後見人になった覚えもないが、ちと
……実は
【
契約を交わした迫間家は〈霊境崩壊〉に際し一族郎党全てが死亡している。加えて現況……御旗であった朝霞家の失墜。
ヒトの身でありながら
明けて
「それでは椿、後は頼みます」
『ンなもん頼まないでください』……などとは口が裂けても言えない。相手は今上天皇である。幼少期に神鷹と二人で遊び役を賜っていた頃ならともかく。正式な場に
依花はこれより、
「……何か、他にありますか?」
十以上も年下の、自分を労わる声。
「畏れながら」
ややあって、椿は依花のいなくなる花霞邸への懸念を口にした。
「――朝霞神鷹にお気をつけください」
夕京五家、朝霞家の長であり幼馴染でありかつての戦サ場での相棒であり親友。
瘴気に身を侵され床に伏した神鷹をこそ警戒しろ、と。
「椿……
対象が誰であれその区別をしない鬼の無感動。
自身を慕った者。共に戦った者。好意を寄せてきた者。それらが敵方に堕ちても鈍ることのない、鈍ることなどできない、ただそれだけのいきもの。
――魔を狩る一門の長は、付き合いが長かろうが夕京五家であろうがその刃を振るうことに
視線を受けて依花は悲痛に眉を寄せたが、小さく、けれど
「……わかりました。くれぐれも、もう無茶はしないでください、椿」
「確約は致しかねます、陛下。お戻りになられた時に、この夕京を取り戻せているかどうかも怪しい」
ですが、と非礼を承知で椿は続けた。
「少しはマシに、しておきます」
それが、この場に於いて椿が出せる精一杯の
椿の懸念に嘘はない。
深山杏李の暴走もそうだが、この少女は例外と言える。
普通に考えて現世においては瘴気に侵されきって、その魂の護り全てを剝がされた者が先ず霊魔へと成るのだから。覚醒の機にもなった、杏李の護衛だった花守がそうなったように。
半年近く前、迫間にて戦い続けていた時に、多くの迫間家の花守たちがそうであったように。
禁裏から辞した椿は足早に廊下を進み、煙草を
やはり、
先の神翁奪還において、その類とは出くわさなかった。
自分が首を落とした、山郷初雨のように――山郷霊脈の結界の中で瘴気を保ったまま、それを隠し
(さて、どう出る――)
二月。春には遠く、雪化粧も落ちることを知らない長い冬。
吐く息は煙を混ぜずとも、ただ白かった。
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