十一
激変した
「
山郷家当主、
孫であり次期当主と
「何故だ、何故こんなことをしたッ! 応えろ、信次……!」
雄一郎の背後。易々とその背を取り、一突きで実の兄に致命を負わせた男は――山郷
「アンタがいけないンだぜェ、
ずるり、と刃が抜け、雄一郎の体が
「アンタの所為さ。兄貴を見ろよ、可哀想に。オレの事を認めてくれなかったばっかりに、こんな何も解って無いような面ァして死んじまって、あぁ~あ」
「た……」
たった、たったそれだけで? 山郷家を継げない、たったそれだけの理由でこの孫は兄を手にかけ、山郷霊脈を――日ノ国を売り渡したというのか。伊之助には理解ができない。現世が幽世に呑まれることを良しとできる精神性なぞ、この老花守は持ち併せている筈がなかった。
「ッッ、信次ィィィィ!」
振りかぶられる〈大和〉。その魂の
「御館様ァ、アンタもう歳だろう? 休んでいいぜ、なぁ――〈
振り下ろされる〈大和〉。悲鳴のような金属音。未だ残る迷いごと斬り伏せんと放たれた
「貴様ッ、信次ッッ! 何処まで我らを
今しがた弟に背後から串刺され絶命した、山郷家長男だった。
「お゛……お゛ォ……」
「そうそう。兄貴は弟を守るンだって決まってるもんなァ」
――胸から零れた
「おぶッ、ばッ、
その汚染は〈大和〉を受け止めているもう一振りの太刀……〈
「雄一郎、雄一郎ッ!
それは叱咤のような懇願。
「にげに、にげにげにげにげにげげげげげげげげ!!!」
だが届かない。開かれた
〈花守〉の戦いは常に決死である。その理由がこれだ。常人と比べるべくもない高い霊力とに加え、刀に憑いた神――刀霊との契約を為し得るだけの感応力の高さ。その魂の外殻が剥がれ落ち、活力の代わりにあの世の瘴気を
故に身を切る想いで今上天皇
〈幽世〉の軍勢に対し圧倒的に数で劣る〈花守〉。日々の闘いで少なからず培われた絆を
――儂が斬らねば。
そう決意して握り締める〈大和〉の、何と重いことか。
このような決断を、彼の一門は幾度越えて今に在るのだろうか。否、迷いは消せ。
「……ふぅぅぅぅ」
されど思い出が吸い込んだ空気と共に脳裏に巡る。
だがその情を、塗り潰された長子も、自ら進んで投げ捨てた次子も持ち併せていなかった。
黒刃が迫る。
「すまない。
近いようで遠い戦地の孫娘を想う。
「アッハァ。御館様ァ? この話持ってきたの、
――砕かれたというのなら、信次のこの一言にだろう。もはや〈大和〉の、主を呼ぶ声すらも遠く。構えることもできずに凶刃の進む先がこの身であろうと動かせるだけの心は、山郷伊之助に残されていなかった。
/
「――“
絶望の淵に、
「
駆け抜ける四足の
「是非も無し、いざ。“
それは間も無くをして、二足の二ツが駆ける足音に変わった。
「〈
「!?」
降り下ろされた〈武蔵〉の、刃の腹から打ち払った一閃は
「――〈
「なんッッッだお前ェら!?」
信次は飛び込みざまに振るわれた小太刀に
「……
名乗り上げながら、使い込まれた着流しに
「
伊之助は自身と雄一郎の間に立ちはだかる
「
「ああ。
「伊之助殿はお下がりを。
「私は自信がない……」
「御影殿」
「いやさ弱音よ、うん。……これが武者震いというやつか」
いや参った参った、と小太刀を握り直す瑞己。
――かくて役者は揃い、二人の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます