三寸
――幼い瞳が
「あの、御迷惑、だったでしょうか……
「いや……」
少女の名は
「お前さんが悪いわけでもない」
相手は子どもだが、自分とてきちんと大人になりきれていないのだろう、と。椿は不機嫌の理由はこの少女に無いと明言しておきながら、不機嫌であることを隠しきれなかった自分の至らなさをそっと
「よりにもよって、おれなんぞに任すことにしたあいつらが悪い。……往くか」
「は、はい……」
揃って
――椿本人も同じ歳の時に、同じように長大な刀を佩いて歩いていたのだし。
〈夕京五家〉の内二ツの当主と、花守隊の参謀から直々の指令でなければいつものように断っていた案件だ。
「ったく、何を考えてやがるンだか……」
現在の夕京、花守隊の本陣である
そんな榎坂の見回りをしろ、という今日の任務だけでも首を傾げて然るべきなのに、五家当主、
『椿なら安心だから』
『じんくんが言うなら椿ちゃんにお任せするわ』
――不本意、というのであれば。今日の仕事が前線に出るのことではなく榎坂の見回りを任されてしまったことに尽きる。椿は別段、戦闘狂というわけではない。霊魔を討つのが日常だが、それを愉しいと思ったことはない。ただ、百鬼はそれにのみ突出した一門だ。
(……
知らず、右手の乗せられた柄に、顕現していない童女の刀霊が首を傾げた気がした。
「……あのな、宗方の」
「は、はい」
「どうせ神鷹から『椿から目を離さないで欲しい』とでも言われたンだろうが、そりゃ方便だ。ここんとこお前さんも忙しかったろうし、その歳の頃は色んなモンに目移りするのが普通の女子のすることだよ」
その言葉に、鹿立は肩をぴくんと跳ねさせた。
「百鬼さまは、
「まったくこれっぽっちも御存知じゃねェが予想は付いてる。大方アイツ、こう言ったンだろ? 『椿はすぐに無茶をするから、鹿立に椿を見ていて欲しい。できる?』とかさ」
「わ、一言一句
「
椿に鹿立を任せた理由と、鹿立を椿に
ともあれ、戦い抜くには休息も必要だ。前線に出続ける花守ならば尚更に。幼い花守ならば尚更に。そして神鷹も椿も、同じことをおそらく考えている。
「……ニンゲンってのは霊魔と戦うばかりが人生ってわけじゃあ、なかろ。その歳で遠慮なンざ覚えても大人の方が立つ瀬なくなるっつーことだ」
依花も、神鷹も、麗華も。……そして、椿も。
勝ち取った
「ま、連れ合いの歳がお前さんに合って無ェのはアイツらの落ち度だからおれを責めないでくれ。宗方の、」
何食いたい? という椿の問いに、鹿立は視線を左右させた後……やはり、遠慮がちに、
「……
と囁くように言った。
……さて。百鬼椿には本来こんな時に女性の希望に沿った案内を要領良くできるような知識は存在しない。存在しないが、頭の回る幼馴染というのは厄介で、前日に渡された任務の見回り先に都合良く
(ま、
「
言って、再び歩き出す。
日は真天に昇ったばかり。歩幅はいつもより、三寸短く。
急ぐことこそが無粋な道のりを、ふたりの花守はゆっくりと歩いて行った。
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