第参話【或ヒハ、仙人掌ノヤウナ】
ナキリ
百鬼の当主は、その座と共に代々『椿』を継承する習わしである。端的に言うのであれば、当主となる人物は二つの名を与えられる。この六十二代目がそうであるように。
『……そう。おまえの名は■■■だ――』
春は遠く。帝都
――
/
彼の誕生を
百鬼の屋敷は人は少ないが、声が途絶えることもなく。第二の実家と言っても過言ではない迫間家に出向く度に、やれ『また背が伸びたか』『
厳しくも愛を持って育ててくれた
ただひとつ。百鬼の人々と共に彼がこの世に生を授かった日から見守っていた、守護刀霊〈
たとえばそれは、
夏のはじまり。晴れ渡った七夕の夜など、思わず目を背けたくなってしまったほどに。
どうすれば
秋口。そっと
『――ああ。これが か』と。
人生の解答を得た者の、
――そして、
/
夕京五家がそれぞれ、その血と霊力を
百鬼の祖は平安の時代、東海道を遥か西――
その報酬として百鬼が迫間に求めたのが、一門当主を選定する為の場所――この大霊脈だった。
洞の中に生者は居ない。霊脈を伝い、此方に流れ着いてしまう、この世ならざる存在たちだけが、けれどこの暗闇の中から一歩も動けず
『この洞の中で、七日七晩、ヒトとして生き延びよ』
条件はこの、たった一ツ。
それを告げた実の父親……六十二代目椿の手には、同じく彼の成長を見守ってきた大刀〈雪〉が在った。
子どもの手には
七日七晩の後、どうあれこの洞に這入った者は戻ってくる。当代の椿が〈雪〉を手にしている理由はひとつだけ。
ヒトであればそれで良し。霊魔となって戻ってきたのであれば、速やかにその首を落として滅する。それが椿の名を受け継いだ者の役目の一ツだからだ。
延寿二十八年。
六日目の夜。寝ずの番をしながら『その時』を待ち続けた彼らの前に、抜き身の打刀を担いだ少年が戻ってきた。
『……親父殿。もう此処には霊魔が居りませぬ』
面食らう百鬼と迫間の面々に、少年と同じく
『
この瞬間、六十三代目の『椿』がこの地に咲いた。十二歳の時である。
次の春、彼は
そこから更に十四年。この日ノ国を
予期できぬ
やがて
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