神なる鷹
「ふ――ッッ!」
呼気、一閃。
――御覧の通りに、討てるのだ。
その刀身には
「
瘴気により淀んだ堀の奥、皇居の正門に立ちはだかった霊魔を討ったところで、神鷹はその理由を考える。
……確かに、この皇居を擁する
(何が狙いだ……?)
椿が警戒する、能もち――幽世に在りながら、ヒトとしての知性を保っている霊魔。そういった機微を持つモノが裏に潜んでいる、と神鷹は直感した。
この桜路町は現在最大の戦地であり、だからこそ花守たちの、そして皇族の
今回の作戦以前からこの地に残り続けていた花守たちの奮戦もあり、桜路の霊脈へはまだ霊魔の侵入を許していない。
ムキになるのは人の領分だ。ならば連中は何を求めて――そこまで考えたところで、神鷹の全身に悪寒が走った。振り返る。突入した花守は凡て神鷹の号令どおりに皇居の制圧に向かっている。後ろには後詰しかいない。
逡巡、一秒。それ以上の惑いは皆の命に関わると断じ、神鷹は決めた。
「このまま霊脈の確保に向かってくれ!」
「朝霞様!?」
踵を返し、皇居の敷地から走り去る神鷹に泡を食う傘下の花守。
つい先ほどは正門に鬼が立ちはだかった。今はその役を、他ならぬ自分が担当することとなっている――此処で迎え、討つ。一歩たりとも進ませない。
桜路町の……皇族に連なる花守たちは何を護っていたのか。無論霊脈だ。それとは別に、この土地には
死後、幽世へと赴くことはなく。この土地に首と魂を遺したままの存在。
日ノ国に生きる者たちであれば誰しも一度はその名を聞く、その武功。
ソレが、霊境崩壊に際し途絶えた禱りの隙を突かれ、存分に瘴気を充填された場合どうなるか。
「――いやはや、生きて御身と
神鷹の首筋を、冷たい汗が流れ落ちる。応える声はない。
その霊魔は、旧い甲冑を纏っていた。
その霊魔は、右手に太刀を握っていた。
その霊魔には、首がなかった。
桜路の門が死地へと変貌する。連中の狙いはこれか、と神鷹は鞘を握ったままの左手の震えを、
「すぅ……はぁ……」
深呼吸一つで、ぴたりと止めた。
首無し公が、口上を述べぬ代わりに太刀を大上段に構える。
「……〈無銘〉」
無き銘を呼び、神鷹は右手を柄に乗せた。
応える声はない。神鷹の乏しい霊力では、この刀に宿る刀霊の声も、姿も知覚することはできない。――それでも。
共に、今この瞬間まで傍に居てくれている、と神鷹は信じている。信じられた。亡き父・
〈無銘〉は神鷹を裏切らず、神鷹もまた、〈無銘〉の主に足る自分であろうと努めた。それが今の朝霞神鷹を造っている。
「夕京五家、朝霞当主神鷹――
応えたものは声ではない。瘴気に侵された霊魔に相応しからぬ純粋な『戦意』がただ、
両者は必殺、二振りの太刀が届く距離までの距離を一気に詰めた。
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