桜路町奪還戦
鬼神楽
慶永六年、十月。
〈夕京五家〉現在筆頭にして〈
「……陛下の号令の
微笑む。
「決生の覚悟を以って挑みましょう。――
「は」
麗華が座り、控えに立っていた羽瀬
「……
そして――
「皇居へは
優しすぎる陛下では下せない、その冷徹。何も矛盾などしていない、敵を討たねば訪れない未来と、その為に支払う犠牲への痛心。皆が生きる為に死地へ赴けという参謀の、
「安心したぜ。後方待機なんぞ命じられたらどうしようかと不安だった」
そんなものは不要だ、と言うように笑う。
「いずれ落ちる首だ。それまでは好きに使え」
「ええ、使いますとも」
「んじゃ、使われついでにお前さんとこに一人、
/
「椿……椿!」
「ぁン?」
支度を整え、帽子を被った椿の後姿に追いついた神鷹へと振り返る。
「……無茶をするなよ。危なくなったら、」
「はッ。
白手袋を
「……陛下を二人で連れ出したことがあったろう?」
「あぁ。あの時は後でこっぴどく叱られたね……」
「おれたちも、あれからちっとは大人になって、色々覚えた。次のために練った作戦が
笑った。神鷹も笑った。
「……そうだね。うん、そうだ。必ず桜路町を取り戻す。百鬼殿、御武運を」
「あいよ。朝霞殿も存分に」
――
/
桜路町・神守境界線。そこが百鬼椿の戦線だった。
「〈
(まばら。大物もそんなに、こっちへは来ていない。)
(いっそ一纏めにしてしまうのはどうだ?)
脇差の索敵と大刀の提案。ぶん、と刃に残った黒い血を振り払い、椿はそうな、と頷いた。
「ヒト同士の
握りこんだ札に呼びかけると、跳ねたような声が返ってくる。通信先は榎坂、指令本部である。
《はっははははい!》
「羽瀬に両翼を少し前進させろと伝えてくれ。無理させない程度に、とも付け足してな」
《りょ、了解です。……あれ? でもそうすると霊魔が一箇所に……というか、》
司令本部で椿の声を受けている少女――
霧原灯花。霊境崩壊の折に自身だけを残し、霊魔に家族の凡てを奪われた花守、霧原家最後の生き残りであり……刀霊〈
「視りゃ解ンだろうが」
《いえ、その百鬼様? そうすると霊魔が百鬼様のところに集中してしまうわけで……》
眼鏡を外した少女の視界。〈霧渡〉の持つ霊力が重なり、夕京の地図に霊魔の存在を黒点として浮かび上がらせる。
「それが狙いだ。消耗戦なんぞこっちだって願い下げだからな。策を打たれる前に野を築く。そう伝えろ」
《えぇー……!》
(……策? 霊魔が?)
それを聞き返す前に、通信は切れた。涙の浮かんだ目元を擦り、羽瀬へと椿の案を律儀に伝える灯花なのであった。
/
(つばき。来た。)
「い
一門を率いて椿が駆ける。落とした首など数えずに、それはさながら網漁の如き食い荒らしであった。
(
月下の桜路町に影が重なる。見上げるばかりの
その巨腕が、大きく振りかぶられる。椿は腰から
(……つばき。)
どこか非難めいた声を椿は無視する。空中で抜き放たれた刀身を握っているのは、刀傷をその
『―――!?』
花守が
がくん、とその高度を落とした。
続けざまに銀が閃く。その度に空が遠ざかる。
「よいせ、っと」
晴れる土煙。何事か、と見下ろした先で、一匹の鬼が無造作に大刀を振りかぶろうとしていた、と鎧武者は虚ろな脳裏にその状況を認識し。
自分が、達磨落としのように
『■、■■■■……!』
続く一閃は胴を薙ぐ。
「吼えンじゃねェよ、鬱陶しい」
もはや地に這い蹲るばかりの自分――たったひとりの鬼に、今は見下ろされている。
音もなく眉間から抜かれた脇差は右手に。大刀と併せて丸太のような頚に交差された二ツの刃は、あまりにも
(つばきの……百鬼の戦い方は知っている。)
(知っているけど。)
じょきん、と命無き者の命を断つ音。真黒い返り血を浴びる主へ、薄氷はやはり不満げに言った。
(これはどうかと、やっぱり思う。)
「そうか。慣れろ」
左右の二刀を振り、血を払って鞘へ納める。それから顔を拭って振り返った。
「……さて。神鷹のヤツは上手くやっているかな」
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