帰宅

私は洞窟を出た。


やりたい事が溢れていた。


しかし前向きな心情ではない。


むしろ後悔に溺れそうだった。


何故これまで何も知らずに

知ろうともせずに生きてきたのか。


幼い私でも違和感はたくさんあった。


まず父が戻らないというのに

ほとんど騒ぎにならなかった。


私が住んでる村は小さな島だ。


島がひとつの村だから

村としては大きなほうだ。


人口も少なくないが

村の住人ならほぼ顔もわかる。


村が大きな家族のような感覚だ。


そしてうちの家系が代々村長をしている。


家長とも言うべき村の代表者が

失踪したにしては静かすぎた。


失踪ではなく決まっていたのだろう。


父のあの状態が儀式の完成だったのか。


そして今から思えば皆が私を慰めた。


私が知らない事を皆は知っていたのだ。


何となくだが自分で辿り着かなければ

いけないような気がしていた。


あの洞窟の中に並ぶ

御先祖であろう何十体の即身仏と

その奥に御神体のようにある神々しい巨石は

私が来るのを待っていた。


きっとあそこは私だけが

入ることを許されているのだ。


そしてこれからその意味を

知らなければならないのだ

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石神村 羊虎 @ANIKING

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