LOOP THE LOOP!!! - ⑤

★LOOP THE LOOP!!!



俺は覚悟を決めていた。


何度も経験した教室。

何度も聞いた芹沢の言葉。

「――いつまでもこのままじゃ、だめだよ?」


俺は考えておいたとっておきのセリフを言い返してやった。


芹沢の目が見開く。

こんなこと言うとは思わなかっただろうな。

俺は苦笑した。


「愛ちゃん、なんだって?」

「そろそろいいかげん、ハッピーエンドがみたいってさ」











☆最後から二番目の場面転換

小葉瑠と別れ、家に戻ると後藤に電話を掛けた。

数コールが過ぎても俺は焦らない。


「はい、後藤です」

「お前さ、文句言うなよ。変わってしまっても、文句なんか言うなよな」

「はあ、いきなりなに?」

「それと、時間にはきっちり来いよ」

なにそれ当たり前だろ、と後藤は笑った。


「じゃあまた後で」

俺は知っている、何と言おうが後藤は遅れてくることを。

俺は覚悟を決めた。

待ってろよ、小葉瑠。これでおしまいだ。











☆最後の場面転換

時計は二時五十八分。


二人はバス停にいた。

最後のバス停。

そう思うと、俺はなんだか名残惜しくなった。


「なあ、小葉瑠。面白い話をしてやるよ」

「急にどしたの?」


俺は有無を言わさない。

「知っているか?」

とある大切な人が教えてくれたんだけどな――


「いつかは変わらずにはいられないんだ。永遠にいまと同じだなんてありえない。卒業だってするし、いつかは故郷から離れるかもしれない。時間はすべてを変えていく。時間は前にしか進まない。それはみんな一緒で避けられないんだ」


――時間は前に進むもの

そうだろう?


小葉瑠は驚いた顔をした。

同じことを考えていたのかと思ったのかもしれない。


ごめんな、ちょっとだけズルをした。


「だから――俺は決意したんだ」


熱をもった、でも柔らかい風が吹く。

小葉瑠の前髪が、ふわりと揺れた。

眉は張り、唇はきゅっと固く結ばれている。

膝の上ではグーが二つ。


「決意ってなにを?」


俺は答えなければならない。

考える時間はたくさんあった。


なのに、

「――大体わかるだろ」

この期に及んでそんなことを言ってしまう自分に、心底情けなくなった。


「大体ってなに」

小葉瑠はもう、曖昧で茫洋とした答えを許してくれない。


「ちゃんと言って」

「ちゃんとって――」

……そうだよな。ちゃんと、しないとな。


俺は目をぎゅっと瞑る。

そしてゆっくり開く。

眩しすぎる光が、入り込んでくる。

そこにはよく知った、俺の大好きな一人の少女がいる。




小葉瑠の肩を寄せた。

二人は目を閉じる。お互いそれを予測していたかのように。




三時ジャスト。

初めて俺からキスをした。

たっぷり三秒間の、甘い沈黙。

柔らかい唇を離す。




小葉瑠が紅潮させた頬を隠すように手をあてて言った。

「34点」

「なんだそれ」

俺はつい噴き出す。

それじゃあ赤点だ。



「まあ、今日はこれくらいで許してあげる」

小葉瑠の表情が見たこともないものに変わった。

それはおよそ、人間の定義した曖昧な言葉なんかじゃ言い表せないものだった。


時計の針が、動き出す。

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