第2話 母も転生者?
ワーツワルの指輪#2『母も転生者?』
「なんで鍋なんだよ、暑いやんっ」
「食べたかったんやもんっ」
と言うわけで、食事の時間に厳しい母に文句を言われないように七時半にまひろを連れてくると、食卓には水炊きが煮立ついい音がしていた。なぜ夏の暑い盛りにわざわざ鍋なのか、白菜も高いのに。せめてキムチ鍋では? などと言う反論は意味がないだろう、もうすでに出来上がっていたからではない、母は人の話を聞かないタイプだからだ。
「わるいな」
隣でキョトンとしているまひろに軽く詫びるが、どこか上の空で、普段見せないような
「ちひろさん、いつもありがとう」
そう言って、当たり前のように食卓につく。まひろは母のことを名前で呼ぶ。席も、決まって母の右横だと決まっていて、自分用の座布団まで敷いてあるのだ。
まひろの母親はシングルマザーで、まひろを産んだのは30代後半だったと言うことだった。中学に入ったときに色々とそのあたりの経緯を聞いたらしいが「今は秘密」と、自分には教えてくれなかった。幼馴染とは言ってもデリケートな問題に首を突っ込みたくはなかったので、自分からその話題を振ることないのだが、その反面、誰かに聞いて欲しいと思っている様子のまひろの気持ちもわかるので、少々面倒な問題ではあった。
まひろの母親はバリバリのキャリアウーマンで、定年までいてくれと懇願された会社をさっさと退社して、新しく起業した会社で副社長のような立場で働いている。相当忙しいらしく、この数ヶ月、五分と話す時間さえない始末だ。それまでもまひろがうちで食事をすることはあったが、この数ヶ月はほぼ毎晩といった具合だ
になっている。まひろでもさすがに多少は気を使うのか、花嫁修業だとかいって自炊をすることもあるようだが、そっち方向の才能はないらしい。自炊が二日と続いたことがないのは、主に味の問題だと白状していた。
母が自分を生んだのは、マヒロの母親とは逆にかなり若いときだった。というか、高校を卒業してすぐに妊娠、出産んと言うのはかなりやんちゃと言われても仕方ないだろう。その上、父はその3ヶ月後に病没してしまった。「さすがに落ち込んだ」という母と、3ヶ月診断で偶然、まひろの母親は知り合いになって仲良くなったそうだ。同じ3ヶ月お子供を持つ親同士とはいえ、かたや未成年、かたや高齢出産、共通点はないようにも思えるが、周りからかなり浮いた二組だったのも事実だろう。それに・・・二人とも性格がよく似ている、何かと大雑把なのだ。
母がまひろを自分の子供のように思っているのはその時の経験が大きいと言うことだが、自分が見るところ、どう考えても息子》」よりも《《娘を優先してないか? と思わなくもない。実の息子としては頼むからそんな服で外に出ないでくれと言いたくなるような服装で、まひろと遊びに行くのをいつも楽しみにしていた。姉に間違われたと、いちいち報告されても、実の息子としてはどうすれがいいのかと。
3人して、とにかく熱々の鍋を汗を拭きながら食べる。母は、まあ一人で子育てしながら苦労したということもあるのかもしれないが、料理はうまい。鍋は十分以上に美味かったが、何せ暑かった。食は進むが、食べれば食べるほど汗が吹き出て、何かの罰ゲームのような状態だった。
自分が気づいているくらいなのだから、母もとっくに察していて、まひろを気遣っている。普段なら、まひろが落ち込んでいても笑い飛ばしたりずけずけと理由を根掘り葉掘りきいたいたりする母がそうしないのは、やはりいつもとは違うと感じているのだろう。時折意味ありげな目線をコチラに向けてきて、居心地が悪いことこの上なかった。
やっぱり、放課後のことが原因なのだろう。だが、まひろがどんなつもりだったかはともかくとして、あそこで小芝居に付き合うべきだったのか、冗談だと受け取って笑い飛ばすべきだったのか、とっさに判断なんてできないし、今でもどうしたらいいのかわからない。
まひろが夕食に来るときには自分とまひろでえ後片付けをするのがなんとなくの決まりになっていた。食器を洗ってから3人分の飲み物、コーヒーが2杯とココアを1杯を用意して食卓に戻ると、母がテレビから視線を外して、ココアを一口すするとこともなげに言う。
「ところでその指輪ってさ、あんたたちやっと付き合い始めたの?」
「えっ!?」
ワーツワルの指輪 滝沢諦 @nekolife44
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