第10話 炎神のご褒美

終焉徒のスナイダーとツンドルフを退けたサリス、グレンデル、リューシュの3人は富裕層の街カナルの中央通りを歩く。次の目的地、炎神フレイの神殿に向かう。



カナルの出入口の扉を抜け、サリスは停めておいた魔法車に向かいながら


「よし、とりあえずフレイに会いに神殿に戻ろう。話はそれからだな。」


と言い『フレイ・フィール』を発動。魔法車に動力を供給した。唸る魔法車に乗り込む。グレンデルとリューシュの二人も

「うん。分かった、ドクター。」

「りょ〜かい!!サリス君の魔法車なんて何年ぶりだろうねぇ?!」


と各々返事を返す。


魔法車はフレイグスの中央街に向かって走り出した。



数十分という速さで中央街に到着した魔法車は昨日と同じ場所に停車された。ここからは徒歩での移動だ。



ー炎神の神殿前ー

「ん〜!!もう少し時間がかかると思ったけどかなり早く着いたね〜!!」

伸びをしながら先頭を歩くリューシュはそう言って石の扉の前に立つ。そして

すぅ、っと息を吸って


「フレイ様〜!!リューシュだよ〜!?遊びに来たよ〜!!扉あーけーて!!」

まるで友達の家に遊びに来た様な物言いで叫ぶ。


赤い大きな石の扉はゴゴゴゴゴと音を立てて開き三人を迎える。中から熱風が吹いてくる。


「そういえばおじさんの神殿、暑いんだった……」

ここまで来る時点で少し疲れていたグレンデルは神殿を思い出しあからさまに嫌そうな顔をする。


「仕方ないだろグレンデル……相手は炎の神なんだからよ……」

かく言うサリスも内心暑そうだった。


唯一涼しそうな顔をしていたリューシュが「じゃあ楽しちゃおっか〜!」

と言い、『ウイン・ソール』を発動する。


「ほらほら、サリスも!!グレンデルちゃんは私が抱っこするね〜??」

サリスにも魔法の発動を促し、グレンデルをヒョイっと持ち上げる。


「はいはい。『ウイン・ソール』!っと。」

サリスは指示に従い魔法を発動。


「わっ。リューシュさん、その抱っこの仕方ちょっと恥ずかしい……」

持ち上げられたグレンデルは驚くが、お姫様抱っこが嫌なようだ。


「えぇ!?昨日の戦いの時もずっとしてたよ!?この抱っこ嫌いだったんだね!!」


「えっと、、そうじゃなくて!リューシュさんの抱っこ嫌いじゃないよ?でもなんだか恥ずかしいから・・・おんぶがいい、かな。」


ショックを受けていた顔はグレンデルの言葉を聞くとパァっと明るくなり


「恥ずかしいだけか〜!!嫌われちゃったかと思ったよ〜!!それにしても恥ずかしくてモジモジするグレンデルちゃんも可愛いなぁ〜!!!」


ニコニコしながら抱っこからおんぶに変えるのだった。





初めて来た時よりも圧倒的に早く着いた三人を待っていたのは炎神フレイ。

前回とは違い既に顕現していた。


「おぉ!サリス!!待っとったぞ!それに嬢ちゃんも元気そうで何よりだ!それに、また一人我が友人を連れてきてくれるとは!全く神想いな二人だな!」

豪快に笑うフレイは横目でリューシュを見やり「リューシュもこの二人に付いていくことにしたのか?」と問う。


「うん!!サリス君は友達だし、グレンデルちゃんは可愛いからね〜!!興味が湧いちゃったんだよ〜」

問われたリューシュもニコニコ。

たわいもない話がしばらく続いた。



一通り挨拶を終えたところでサリスが切り出す。

「フレイに頼まれた依頼もきっちりこなして来たぞ。もう北西の異変は無いと思う。今日の用件ははその報告だけだな。」


「私も手伝ったんだよ〜!!」

リューシュも手を挙げて報告。


「俺が思ったよりも速かったな!やはりサリスたちがやってくれたか!感謝するよ。」


サリスに礼を言ったフレイは「報酬をあげないとな」と言いグレンデルを手招きする。


「私?なにか貰えるの??」

招かれるままフレイの前に来たグレンデルはポカンしている。


「よし、嬢ちゃん。そのフードを取ってくれ。そしたら頭を俺に向けて。」


「ん、分かった。」


言われるまま被っていたフードを取り、フレイにお辞儀するように頭を向けたグレンデル。

フレイはグレンデルの頭に向かって右手の掌を開く。


するとグレンデルの頭を包むように柔らかな炎がゆらゆらと揺らめく。その炎はグレンデルの前髪のあたりに収束し、赤い光をあげる。


「よし、終わったぞ。人間のサイズに合わせたから似合うはずだが……あとは俺のセンスだな……」


グレンデルの前髪には赤い魔石が埋め込まれ、二対の羽のような装飾をあしらった髪飾りが留まっていた。


フレイを見上げ、髪飾りを外し眺めて声を漏らした。


「これ、髪飾り?可愛い……貰っていいの??」


「あぁ、いいぞ。嬢ちゃんによく似合ってる。精霊を模してみたんだが上手くいったな。」


「おじさん、ありがとね。大事にする!」


ニコッと笑いお礼を言うグレンデル。クゥーっと片手で顔を抑えるフレイはプルプルと震える。

(この子、ええ子や〜)っと。


フレイがプルプル震えている間グレンデルはサリスとリューシュに髪飾りを見せに振り返り歩み寄る。


「ドクター、リューシュさん。見て見て、おじさんに貰っちゃった。すごく綺麗だよ。」


「ほぉ、フレイにしちゃ細かい仕事だ。こりゃグレンデルに似合うな。」


「可愛い〜っ!!精霊さんかな〜??精霊さんを形どった髪飾りだね〜!!グレンデルちゃん!とっても似合ってるよ!!」


二人もまさかこんな報酬だと思わなかったのか驚きつつ顔を赤らめたグレンデルの髪についた髪飾りをマジマジと見る。


「そんなに見られると恥ずかしい……」


「その髪飾りの説明をしよう。まずは中心にある魔石。それは俺の恩恵を宿した魔石だ。そしてなぜ精霊の形をしているかと言うと、そいつは魔力を流し込んである程度蓄積してやると動くからだ!!」


やっとプルプルから開放されたフレイが髪飾りの説明をする。


「え、この髪飾りって動くの?」


「なにそれ!すごい〜!!可愛いだけじゃないんだね〜!!」


「また訳の分からない物を……」


髪飾りの正体を聞き、グレンデルは驚き、リューシュはピョンピョン飛び跳ね、サリスは呆れ顔。フレイは尚も説明を続ける。


「そいつは動くと言っても羽があるから飛べるんだがな。魔力を流し込んだ者の意思によって自由に動かせれる。そして溜め込んだ魔力を放出する事が出来る。つまり蓄積した魔力の分だけ魔法が発動出来る。」


「め、めちゃくちゃ強いじゃないか!!」

説明が終わると同時。サリスが文句を言うように大声で言う。


フレイはニヤリと笑い

「ただし、弱点もあるんだよ。この髪飾りは赤色の魔法。つまり攻撃色の魔法しか発動出来ない。しかも遠隔での魔道具だから燃費も少し悪めだ。」


フレイは最後に「要するに使いようだな。」と付け加えた。


「なるほどな……こりゃ使う場面が限られるな。」


サリスは思案顔でデメリットについて考えている。


「私使えないじゃんか〜!!!せっかくのとっておき魔道具なのに〜!!」


強化色のリューシュは喚いていた。


「はっはっはっはっ!!この世に万能な物なんて無いんだよ!!残念だったなリューシュ!」

リューシュの反応が面白かったのかフレイは笑いながらリューシュを諭す。


一方、黙ったままのグレンデルは髪飾りに手を触れ

「こうかな?」

といい魔力を流し込んでみようとするが動く気配がない。


「ん〜。うまくいかない。」

「お、さっそく試してるな?嬢ちゃん!まぁ、少しコツがいるかもな!」

またしても「はっはっはっ!」と笑うフレイだった。


やれやれとため息をついたサリスは

「よし!イイもん貰ったし、俺達はそろそろ出発するか!」

と出口に向かい、フレイに背を向けながら声をかける。


「は〜い!」とリューシュ。


「お、そろそろ行くのか。俺が出来ることも今はもう無いからな。三人とも元気でな。」

少し名残惜しそうにサリスの背中を見送るフレイが別れの挨拶をする。


背中を向けながら右手をヒラヒラとするだけのサリスと、「またね〜」と手を降るリューシュ。


「あ、待って」


二人に置いて行かれそうになったグレンデルは二人を追いかけようと一歩踏み出すが、足を止めフレイに向き直る。


「おじさん、恩恵も、髪飾りも、ありがとう。」


と言って二人を追いかけようと振り返り駆け出した。


「……っ!」

不意打ちを食らったフレイは一人残った神殿でしばらくプルプル震えているのだった。







「ドクター、この後はどこに行くの?」

魔法車に向かっている時間、歩きながらグレンデルが質問する。


「とりあえずこの後はフナリスって国に向かおうと思う。魔法技術が発達した街だ。行ってみたいだろ??」


「魔法の街!!楽しみ。」

表情が明るくなったグレンデルは今から行くのが楽しみなようだ。


「フナリスぅ〜??ちょっと苦手なんだよなぁ〜……」

リューシュは少し乗り気ではない様だがサリスは構わず魔法車を動かす。



三人を乗せた魔法車は西に向かって走り出した。





「あ、ドクター、この車の名前考えて無かった。」

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