自己紹介
山根利広
自己紹介に代えて
わたしの名前は山根利広。
さきほどユーザー登録したので、カクヨム年齢は0歳。実年齢とかなり隔たりがあります。性別は男。住所は日本のどこか。特技は、……なんだろう。いちおう、未来予知、ということにしておきましょう。
唐突にそんなことを言っても、とあなたは思うでしょう。でもね、死んだ人たちは、生者たちの未来を知っているのです。知りたくないですか? あなたの未来も、死者との語らいで分かるかもしれないのですよ。
知りたい? やはり、そう来なくては。分かりました。この自己紹介の末尾に、あなたが出逢う未来をひとつ、書いておきますね。焦らさないでって? いや、その前に、伝えておきたいことがあるんです。せっかくの自己紹介ですからね。
わたしがまだ中学生のときでした。たしか2年生のころかな。その日の夕方、急いで家に帰っていました。見たいアニメがもう少しで始まるので、とにかく必死でアスファルトを駆け抜けた。
わたしの頭にはアニメのことしかなかったので、周囲の状況など考えずにひたすら走っていました。横断歩道に差し掛かったとき、たしかわたしは信号を見ずに突っ込んでいったのです。大型車が突っ込んできて、鋭いクラクションが響いたときには、すでにわたしの意識は飛んでいました。
気がつくと、もう日も暮れていて、わたしは歩道に投げ出されていました。ズボンがところどころ破けていましたが、なんとか九死に一生を得たのだ、という感慨にふけると同時に、なんでこんなことをしてまで、とも思いました。
家に帰ってきたのは、午後8時を回った頃でした。お母さんは電話で誰かと話しています。ところがわたしを見るなり、受話器を置いて、涙を瞳いっぱいにたたえてこう言うのでした。
――お父さんが死んだ。
泣き崩れたお母さんになんと言葉をかけていいのか、わかりませんでした。けれど嗚咽混じりに、お母さんは独白をはじめました。
まとめるとこうです。お父さんは、仕事でトラックを運転していた。横断歩道に差し掛かったところで歩行者に気づき、避けようとハンドルを切った。が、その瞬間、車体はバランスを失い、横転して対向車とぶつかった。
お母さんの話は、妙に現実味を帯びて感じられました。まるで自分で見たとでも言うような。
その日から、わたしには未来が見えるようになったのです。
未来を構成する要素は、すでにこの現実に揃っています。なぜかというと、わたしたちのいる地球からおよそ23億光年離れたHUBR163という星群のなかに、地球と瓜二つの天体が存在するからです。そして、そこでは地球が歩んできた歴史が、そっくりそのまま、同じタイミングで進行しているのです。
現代の天文学では、地球からHUBR163と情報をやりとりすることは、とうていできません。ですが死者は、この天体と地球との間を、瞬時に行き来できる。その中間点に、冥府と言われているものが存在するのです。
もうだいぶ、あなたにも分かってきたと思います。そう、今ここにいるわたしは死者、です。あの日、ほんとうはわたしも死んでいた。でもその時は、死んでいたことに気づかなかった。
世界が、わたしには「反転」して見えていたのですから。
死んでいないのはお父さんだけだったみたいです。
ではそろそろ、あなたの未来について記しておきましょう。そうですね、……
……あなたは、もうすぐわたしの自己紹介を読み終える。
とだけ。どうです、合っているでしょう。あなたがこれから、この文章をどこで読み終えても、もうこの予言のとおりなのですから。
それでは、つまらない? たしかにそうですね。では最後にもう一つ附言します。
あなたのいま生きている世界は、HUBR163である。
宇宙に飛び出しても判別はつかないでしょうけど、あなたがいまいるこの場所は、HUBR163です。信じるか信じないかはあなた次第ですが、……まああまり気にしないことです。
確証? まあ、たしかにないでしょう。けれどあなたが地球にいるという確証はあるでしょうか? わたしは、ほんものの地球を、見ています。いまから50万年後にはHUBR163の研究も進められ、完全に未来と過去はコントロールされるのです。
まあ、あなたやわたしがどちらにいるにせよ、生きているのは確か、です。
自己紹介 山根利広 @tochitochitc
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