じいちゃんの畑

一富士二鷹三茄子

　じいちゃんが死んだ。

　原因は季節外れの熱中症。いや、最近やったら5月でも熱中症になるんは珍しくないか。でもじいちゃん。29度の日に部屋閉め切って、エアコンもクーラーも付けんと、毛布被るんはあかん。そんなん、あたしでも死んでまうわ。

　そんなこんなで、じいちゃんが死んだ。不思議なもんで、涙はまったく出てこーへん。なんでやろ。こんの薄情モンが！とか言うて、化けて出てきて怒鳴られそうや。じいちゃんの怒った顔想像したら、さぶいぼ出てきた。おおこわ。

　あたしもじいちゃんも、夏が好きやった。庭の畑でトマトやらキュウリやらナスビやら取ってきて、ボウルに入れた氷水でキンッキンに冷やしてから食べる。あたしはキュウリが一番好きやったけど、じいちゃんはトマトが一番好きやった。暑い暑い言いながら、汗だらっだら流して食べてたキュウリ。なんでか知らんけど、じいちゃんはあんまり汗かかへんかったなぁ。ひたすら、トマトばーっかり食べて、畑の濃い緑ばーっかり見とった。

　でもまぁ、夏になったらアレや、アレ。なんやったっけ？ せや、一富士二鷹三茄子！なんやナスビかキュウリか知らんけど、乗って帰ってくるんやろ？ じいちゃん、トマト好きやったから、トマトに割り箸刺して、うまいこと作っといたるわ。あ、汁だらけになるかもしれへんけど、勘弁して。

　せやから、会いに来てや。庭、綺麗にしといたるから。あたしが代わりに育てといたる。立派なキュウリとトマトとナスビ。じいちゃんが毎年帰って来れるように。

　おかん！じいちゃん家行ってくるわ！

　あたしはそれだけ言うて、家飛び出した。返事なんか待たへん。なんも決まってへんけど、まずは畑耕すとこからや。

　じいちゃん家まで、全速力で走る。あたしの目から、しょっぱい汗があほみたいに流れていったけど、知らんふりして、やっぱりあほみたいに走った。

　お天道さんも、やっぱりあほみたいに晴れとった。