第3話『物語の主人公って言うの様々タイプがいる。無論、ここだけの紹介では収まらない程に』
「さて、トラくんや」
「何でしょう?シアナさん」
シアナに返事をすると、何故か微妙な顔をする。
何か、機嫌を損なうことをしてしまっただろうか?
相手は女神、何をされるか分からない以上は、より慎重に行動しなければと・・・微妙な顔をされている時点で、もう遅いかもしれないけど・・・。
そう考えていると、シアナは頬を指で、ポリポリ掻きながら言う。
「そのー・・・"さん"を付けるのはやめてくれないか?あと敬語もね。そう言うのは何だか苦手なんだ。ムズムズするよ・・・」
「え、でも、女神様ですし・・・失礼じゃないですか?」
「良いから良いから!ボクが大丈夫と言っているんだ!一緒に旅をする仲間なんだから、さんを付けられると距離感があるだろう?」
先ほどから、微妙な顔だったのは、自分の行動が謙遜だったかららしい。
そうしてほしいというのなら、断るわけにもいかない。
だって、相手は女神様なのだから。
新垣は、若干の戸惑いがあったが、シアナがそう言うのなら、仕方ないと思い、渋々答えた。
「あ、ああ、分かったよ。シアナ、これからよろしくな」
「うんうん!それで良い!さてと・・・では、もう一つの世界、ローレンスに行く前に注意したいことがあるんだ」
「注意したいこと・・・?」
そう言って、真剣な顔に戻り、説明モードに入る。
やばい話じゃなければ、良いんだけど・・・でも、表情を見る限りは、かなり大事な事なんだろう。
シアナの「注意」と言葉に敏感に反応して、緊張が走る。
ここに来てから、主に心臓に良くないことばかりだ。別世界だからってのもあるけど、優しい顔から、真剣な表情になるもんだから、心構えする前に、身体が構えてしまう。
「先ほど、言ったけども、ローレンスはご都合主義の世界なんだ。勇者や冒険者、転移、転生者とか何でもありな場所なんだ」
「まあ、そうとは思ったけど、何と言いうか、良くある奴だな」
「そうだね。でもね、カタストロフィの因子のせいで、少しずつ世界は狂い始めている。勿論、悪い方向でね。
そんな中、それをボク達が正そうとして、因子を探し出し封印しようとしている。所謂、物語の改変だね。どうなると思う?いや、カタストロフィはどう行動すると思う?」
どんな行動するか。
少なくとも、カタストロフィが人として行動しているなら、邪魔されたくないだろう。
誰しも、上手くいっている時に邪魔をされるのは嫌だからな。
「まあ、妨害とか・・・して来るんじゃないんですかね?」
「ああ、そうだね、その通りさ!それが普通さ、だから、ボク達がローレンスに転移する時、何かしらの力で邪魔をしてくるだろう。いわば、紛い者の存在なのさ、あちら側の世界から転移で呼び出されるならまだしも、ボクの力で転移されるとなれば、話が別だよ。なんせ、女神の力なんだからね。カタストロフィは神聖な力に敏感だからね」
「な、なるほど」
紛い物。その言葉が深く胸に突き刺さる。
しかし、今はそんなこと考えている場合ではない。
では、妨害してくる以上、どうするのか。
シアナは話し続ける。
「ボクだけなら、簡単にいけるんだけど・・・そうは、いかないからね」
「じゃあ、どうするんだ?」
「そうだね。少々危険な道に乗りになるけど、大丈夫?」
そう言われると、少し腰が引けてしまう。
だけど、自分の世界に戻っても、死ぬ運命なら、大丈夫という選択肢しかなかった。
この女神様は、少しずるいな。
「そんなこと、言われてもなあ・・・元の世界に帰られないしなあ、拒否権はないだろう?」
「フフッ、ごめんね。少し意地悪なことを聞いてしまったね。まあ、行くこと自体は問題ないよ。ただ、今後の旅がきつくなるだけだよ」
「・・・まあ、話してくれ」
シアナは頷いた。
今後の旅がきつくなる。そんな意味深なことを言って、俺に近づいた。
そのまま、上目遣いで話はじめ、右手を掴み、手を表に広げさせる。
もう片っ方の手で、人差し指で広げた手のしわをなぞる。
「先ほど言った通り、カタストロフィは強大な力に反応しやすいんだ。例えば、魔力とかそういうのね。何故なら、大きいほど、利用しやすいし、何かを壊したりとか手っ取り早いからなんだ。だから・・・」
「だから?」
「本来は、君自身に身を守る為に能力や力を与えなきゃいけないんだけど、君は器だから、力を与えてしまえば、転移の途中で狙われるだろうし、無防備になるからね。君は無能力のままで、ローレンスに同行してもらうよ」
そう言って、なぞるのをやめて、離れる。
その世界での、無能力の立場はわからないけど、きっと、そのままの意味で役に立たないのは間違いはないだろう。
良くある、異世界転移にみたいにはいかないようだ。
さらば、俺の異世界生活。
「そして、ボクは神力があるからね。因子での妨害は受け付けないけど、女神の力は殆ど置いて行くけどね」
「何故なんです?」
「女神の力を置いて行かないと"アレ"を抑えることができないのさ、それと転移するときに力を使うからね・・・」
なるほど、確かに管理する人がいなければ、止める人がいない。そして、カタストロフィの侵食
は拡大していく。
そして、転移するにも力を使う。推測だが、転移するときに力を使うんじゃなくて、転移してる時に力を使っているのだろう。
なんせ、自分は器らしいからな。
無能力でも、きっと因子が邪魔してくるには変わりないだろう。
やはり、俺に気を遣わせてしまってるから、今の発言したのだろうか?
なら、自分が出来ることは、少しでもシアナの負担を掛けないようにするしかない。
それに、我儘を言っても仕方ないことだから。
「分かったよ。だけど、あまり無理はしないくれ」
「おや、何に対してか、無理をしないでなのか分からないけど、ありがとうは言っておこうかな。まあ、力を置いて行っても、ローレンスの世界で戦えるぐらいの力はあるから、だから心配しなくても良いよ。命に変えても、君はボクが守るからさ!」
「なんと・・・頼もしいけど、なんだか複雑だな」
本来は、自分が女神様を守るシチュエーションの筈なんだけども、状況が状況で、守られる立場となってしまった。
シアナは、クスリと笑う。
「フフッ、男のだから、主人公に憧れるのも分かるけど、そうはいかないからね。どんなに強くても、無防備な状態であれば、殺されてもおかしくないからね」
「殺されるだけは、嫌かな!」
「怖がらせてしまったかな?ごめんね、トラくん。」
冗談で言っているのは分かるが、それでもハッキリ言うのはやめてほしいものだ。
心臓に悪い。シアナはそう言って、少し離れたところで、天に向けて腕を上げる。
「さて、そろそろ、行こうか。トラくん、君をこんな目に、合わせてしまって申し訳ないね。だけど、必ず君を救ってみせるから、安心してほしい」
そのまま、腕を振り下ろす。
すると、何もない場所から、扉が浮かび上がる。
扉には、大木のような絵が刻み込まれていた。そして、ゆっくりと内側に開き始める。
中は、明るい紫色の空間が中央に向って、渦が出来ていて、白く光っていた。
ただ、凄いという感想しか出なかった。
「さあ、ここをくぐり抜ければ、ボクたちの旅が始まる。準備はいいかい?」
そう言って、扉の横に立つシアナ。
こっちに振り向き、俺が行くまで、待っている。
足を一歩踏み出せば、いつもの生活から離れ、日常から非日常へ。
ふと、足を見ていたら、目を大きく広げた。
俺は一歩踏み出していた。
その一歩は、『好奇心』に負けて惹かれて来たものなのか、頭に浮かび上がる『非日常』という言葉に憧れからくるのものか、はたまた、それとも別の『何か』かもしれない。
だが、一つ分かることがある。
見つめた足の視線を、シアナに向ける。
未だに、琥珀の眼が真っすぐ見つめ、返事を待っている。
「・・・覚悟は出来ている」
「うん、良い返事だ。トラくん」
そのまま、歩き出す。
そして、シアナの隣に並んだところで、手を引っ張り出す。
「え?ちょ?」
「ええい!何か待ってるのも、まどろこっしいから、一気にいくよ!!」
急に引っ張られたせいなのか、シアナ自体が力が強いのか、あるいはどっちもなのか。
新垣は、そのまま力が入れることもできず、シアナと一緒に飛び込んだ。
「うああああああああ!?」
「さあ!君とボクの物語が、無事終われるようにと願おう!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここはローレンス。
様々な、物語が交差する。伝承の地。
─────【小さな村】
「ククク、アイツはもうこのパーティにはいらない・・・!」
そう言って、男は不気味に笑う。
─────【ザムラ領地】
「クソッふざけるな!!」
「お前には、この領地にはもう必要ないんだよ」
そう言って、大柄の男は、男の腹に向けて、蹴り上げる。
「カハッ・・・!?」
「おうおう、どうしたんだ?いつもの威勢はどうしたんだ・・・よっ!!」
何度も、蹴り飛ばす。
何分、何時間経ったのだろうか、男は血反吐を吐き、意識が朦朧とする。
意識がハッキリしてくる頃には、姿はなかった。
「くそ・・・くそくそくそ!!全て奪いやがって・・・!」
男の憎悪が膨れ上がっていく。
─────【森】
「うん?あれは何だ?」
青年は見上げると、数十km先で、何かが歪んでいるのを確認する。
そして、空間がひび割れ、紫色の光が漏れ出す。
しかし、それは一瞬のことで、空間は「抑止」するかのように、元通りになる。
「ヴァン、どうしたの?」
「ああ、ヴェンデッタ。向こうの何かあったみたいだけど・・・」
「気になるわね、行ってみる?」
「ああ、何か問題あったらアレだしな」
二人の男女と仲間たちが、光り出した場所に向かった。
─────【ウルティマ王国】
暗い部屋の中、紅い魔法陣がひときわ目立っていた。
その魔法陣の周りには、数十人の黒いローブを纏った宮廷魔術師が囲んでいた。
そして、何十年の月日を掛けた、術式が今終わろうとした。
その上から、白いローブを着た、初老の男性が、高らかに言う。
「さあ!今、悠久の時が終わろうとしている。最後の仕上げだ」
そして、何十人の魔術師が魔力を言葉に乗せる。
魔法陣が、更に輝き出す。
地面が揺れ、雷で四方八方に飛び散る。
「さあ!!勇者様!この終焉を迎える、世界をお救いくださいませ!」
魔法陣のど真ん中から、光の柱がそびえ立つ。
中から、人影が見える。そして、次第に光が無くなってくる。
そして、声が聞こえてくる。
「えっ・・・?えっ!?どこ此処!?」
出てきたのは、見た事のない異国の服。
見たところ、魔力の帯びていない布しか、来ていない。
髪の毛は、後ろに纏めている。髪の毛は日の当たり過ぎたのか、髪の毛が少し焦げていて茶色。
短いスカート、女性だと分かる。
「おお!!勇者様!」
「ゆ、勇者?」
女性は混乱したまま、初老の男性を見つめた。
─────【冒険者ギルド・ギルド長室】
部屋には、大量の書類が散らばっていた。
そして、机に若い女性が忙しそうに、ペンを走らせる、書き終えた書類をそこ辺に投げ捨てる。
その隣で、秘書らしき男性が広い纏める。
「ああ、もう!!なんでこんなに忙しいのよー!!」
「そりゃあ、ナベル様が、『しばらく、出かけてくる!後は任せた!』と言って、勝手に仕事をほっぽりだしたせいなのでは?」
「うわあああん!ケイラスの馬鹿!ナス!知的インテリ筋肉馬鹿!!」
「それより、口よりペンを動かした方が良いのでは?」
そう言って、男が冷徹な眼差しで、女性に言う。
しばらくして、扉からノックが聞こえる。
「あーもう!何なの!ケイラス出て上げて!」
「まったく・・・人使い荒いですね」
男は、「どうぞ」と言って、一人の冒険者を向かい入れる。
「相変わらず、忙しそうですね」
「んー・・・?ああ!久しぶりだね!」
そう言って、ペンを置いて、立ち上がって言う。
「史上初SSランクの冒険者のティエ=シャルロット君」
───【???】
「・・・運命が動き始めたわね」
館の中は暗く、謁見広場だと思われる場所に、幼い少女が台座に座っていた。
眼を開けると、紅い眼が光り出し、誰もいないのに、一人で喋り出す。
「・・・ククク。面白い物がみれそうだ」
そう言って、一人で笑い続けていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一瞬の出来事だった。
扉に入った瞬間、何か黒い物が、俺に纏わりついたような気がした。
その正体は十中八九、『アレ』何だろうけども、分からない振りをした。
思わず、息を止める。何故、止めたのかは自分でも分からない。
だけど、それは人間の本能的な事だと思う、何かが急に飛び出してきた時に、急に動けなくなったり、目を瞑ったりなどの、無意識的な行動をしているようなものと同じ。
だから、息を止めたんだ。
そして、次に瞬きをした時には、景色が変わっていた。
仰向け状態になっている、視界は澄んだ青景色。
耳元に、ゴーゴーと音が煩く、身体中に風を受ける。
ここで、俺は理解した。
そして、隣に聞き覚えるのある声がした。
「トラくん大変だ」
「な、何でしょう」
俺は何処か捕まる所がないか、確認するが、全て空を切る。
そして、シアナが次に何を言おうとしていたのか、ある程度を予想ができた。
やがて、苦笑いして言う。
「ボクたち、空から落ちているようだ」
「ですよねえええええええ!!!」
どうやら、俺たちの冒険はここで終わりそうだ。
このテンプレ世界に紛い者と無力者《テンプレート・イレギュラー》 出無川 でむこ @usadayon1124
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