第2話『命の危機を感じれば、死ぬ気で頑張るしかない』

学校の帰宅途中に、遠回りしていたら。

本来はあり得ない場所に、電源が付いたデスクトップパソコンがあったで、覗いてみたら。


突如、見知らぬ白い世界が広がっていた。

振り向けば、綺麗な少女がいた。少女は自分自身の事を女神だと言っている。


そして、その少女に・・・。


「ボクと一緒に終焉カタストロフィを止めてくれないか!」

「この世界で、終焉カタストロフィを止めないと、キミが元居た世界も、終わってしまうのだよ」


女神シエナって子は初対面の人に対して、無理難題の事を言ってくる子のようだった。



「は?・・・っえ?」


現実を認識できないのか、思わず後ろに後退りしてしまう。

カタストロフィ?この世界?俺のいる世界が終わる?どういうことだ。

ただえさえ、この場所が何処か分からないというのに・・・。

あまりにも、情報量が多い、非現実的すぎる。


新垣は目の前の出来事に、受け止めきれずに頭を抱える。

そんな、様子をみて察したのか、シエナは彼に近づいて言う。


「そうだよね、いきなりな事だから、混乱してるよね。ごめんね」


そう言って、彼女は申し訳なさそうな声で謝ってくる。

そして、宥めるように、俺の頭を手で撫でてくる。


小さな手、でも何処か安心させてくれるような、さっきまでの不安と焦りがいつの間にか無くなっていた。

落ち着いた途端に、自分が何をされたかを思い出し。

こんな幼い少女に気を使わせてしまって、恥ずかしくなって後退する。


「あ、ありがとう」

「うんうん、落ち着いたようだね」


お礼を言うと、少女は笑顔になる。

それを見て、自分の心を落ち着かせ、そして改めて、今置かれている状況を整理する。

周りは何もない、何処までも続く白い世界、目の前には天使のような可愛い少女。

白い花びらが風景に溶け込むように消えていく。

つまり、この状況は異常だという事、導き出される答えは・・・。


「俺、死んだのか・・・」

「っえ」


シアナさんだっけ、何故驚いているのだろうか?

自分の置かれている状況にすぐ把握したからか?

人によっては、死にたくない!シニタクナーイ!と言って現実を向き合うことが出来ずに泣く人がいるかもしれない。

そりゃあ、誰しも自分の死は認めたくないものだ。

だけど、あまりにも突拍子過ぎて、現実感が沸かない・・・現実にいないけど。


新垣はそう思いながら、自分の死を呟くと、少女が笑う。


「アハハ!君は何言っているんだい?」

「え、だって、この状況って、俺は死んだのでは?」

「いやいやいや!君はパソコンを覗いただけで死ぬわけないだろう!?というか、トラくんは自分の死を受け入れるの早すぎなのでは!?」


シアナさんが驚いた理由は、俺が死を簡単に受け入れた事だった。

いや、俺だって認めなくなかったよ!?だって、目の前に天使がいるじゃん!そもそも天使なのかどうか分からないけど!

たしかに思うと確かに、パソコンを覗いただけで死ぬのも理不尽な程もある。

じゃあ、この状況はいったい?

自分から聞こうとする前に、シエナさんが咳ばらいをして、話をはじめる。


「コホン、どうやら、まだ少し混乱しているようだね。ハッキリ言うとトラくんは死んでないよ」

「ほんとか!?そっか、」


俺はどうやら死んでなかったようだ!

安堵するとシアナは真面目な顔で話を続ける


「ああ、本当だとも。だけど、このままだと死んでしまうかもしれない」

「え、それはどういうことですか?」

「見てくれた方が早いかもしれないね」


そう言って、上の方に指を指す。

それに釣られて、上をみると黒い点が蠢いていた。


「なんだあれ・・・?」


「アレ」を見ていると、どうも気分が悪くなってくる。

それと、眼があるわけでもないのに、見つめられているような気がする。

まるで、直接眼球を鷲掴みにされて、「アレ」を無理やり見せられているようだ。

頭も、首、腕、足が見えない手で捕まれる感覚。

どんどん引き込まれていく、気持ち悪いのに、見ちゃいけないのに・・・。


ここで視界が急に暗くなる。


「わ!?」

「ごめんごめん!でも"アレ"を長時間見ちゃだめだよ」

「あ、はい・・・」


どうやら、視界が暗くなったのはシエナさんが手で目を塞いでくれたからようだ。

あのまま、見つめていたら、とんでもないことになっていたような気がする。

再び、ぼーっとした頭が覚醒する。


「・・・・あれは何ですか?」


新垣は声を少し震わせながら質問する。

シエナの顔は先ほどまでの笑顔がなく、真剣な眼差しで見つめてくる。

その表情に似つかわしくない優しい声が響く。


息を吞む。


「あれは世界の悲劇や憎悪をもたらし、様々な”負”を司る存在、そして・・・全て物語(シナリオ)を最悪で終わらさせ、結末を繰り返し糧にする存在。その名は『カタストロフィ≪終焉≫』

「カタス・・・トロフィ・・・」


新垣は言葉を繰り返し言う。

悲劇や憎悪をもたらし、それを繰り返す。

その言葉を聞くだけで、とんでもないことに巻き込まれた事が分かる。

ただ、何故、自分が呼ばれたのかが分からない、それと元の世界と何に関係するのか。


質問しようとすると、そのまにシアナが動き出す。

新垣の周りをゆっくり足を多く前に広げ、一歩、また一歩と腕をパタパタさせ円状に歩く。

その様子を見るように視線を追う。


シアナは先ほどと同じような声で話し続ける。


「君はシンデレラや白雪姫とか知っているかい?」


その質問に何の意味があるのか分からなかった。

だけど、ここは素直に答える。


「ああ、うん・・・知ってるよ」

「じゃあ、それの元の話は知っているよね」


演劇をやっている新垣にとって、童話と言う物は意外と身近な存在であった。


『ペロー童話』『グリム童話』


それは白雪姫やシンデレラなど、元になった童話本である。

童話本でもあり、幼稚園や劇、映画など、それ意外でも多くの人に愛された作品。

ペロー童話の場合、シンデレラの元の題名はサンドリヨン、他にも赤ずきんやラプンツェルという名作などの見たことあるだろうと思われる名前が沢山あった。

じゃあ、何故、灰かぶりからシンデレラへと名前が変わるなど、シアナが"元の話"など聞いてくるかというと。


「話の内容が過激で残酷すぎるから・・・」

「そうだね、流石トラくんだ」


そう言うとシアナがフフッと声だし笑う。

ペロー童話やグリム童話は過激的になっている為、今のシンデレラや白雪姫など、皆が知っている童話は子供向けとなっている。

シンデレラなら原典となるペロー童話の場合、かぼちゃの馬車やガラスの靴もなく、ドレスは実母の遺品になっている。

結婚後は姉二人と継母は残酷な報いを受ける、その内容は血なま臭い。


その後に、グリム童話が皆が知ってるシンデレラに近いものとなる。

しかし、それでも子供向けじゃないと、現代では綺麗な内容となっている。


「だけど、それとは何と関係あるんですか・・・?」

「カタストロフィはペロー童話やグリム童話見たいな結末を繰り返し、負や欲を糧にして食べ成長していく」


シアナは新垣の前に止まり、近づき見上げる。

そして、そのまま人差し指で新垣の心臓がある場所を円をなぞる。

しかし、不思議と焦りや驚きよりも、安心が優先される。


「そして、君の身体はカタストロフィに狙われている」

「え・・・?」


狙われている。

それはシアナの唐突な告白だった。

あの得体のしれない、黒い点に狙われていると伝えられた瞬間、背中がゾっとする。


「何故・・・俺が?狙われると何が起きるんです?」

「それは運が悪かったとしか言えないんだ、ごめんね。だから君を守る為にここに呼んだんだ」


シアナは守る為と言う。

本当にそうだろうか、だけど、ここに呼ばれたのなら、そうかもしれない。

再び、動き出した。


「君を元の世界に置いてしまうと、いずれカタストロフィの因子が漏れ出てしまい、世界に及ぼしてしまう。因子が漏れ出てしまうだけで、今までの平穏という結末を書き換えて、大災害を起こしてしまう」

「大災害・・・?」

「ええ、そうだとも・・・規模で言えば、キミ達の世界で言えば・・・『シュメルの洪水神話』ほどかな?」

「な、なんだよそれ・・・」


シュメルの洪水神話、それは世界を洗い流す程の大洪水が起きるという。

家族も学校も友達も、全部・・・俺がいる事で死ぬってことなのか?


それは自分がいる事で、大災害を起きると言う。

あまりにも現実離れした出来事で、自分の身に何が起こってるのか分からず、再び恐怖で立ち竦む。

『助けてほしい』『逃れたい』その思いと言葉が頭の中で繰り返してた。

そのまま、頭を抱えて、膝から落ちる。

震える身体は、大きくなる。

恐怖が増えていく一方で、背中から急に暖かい物が包み込まれる。


「大丈夫だよ、その為にボクがいるんだから、キミを死なせたりしないよ」

「シアナさん・・・」


そっと、頭を撫でられる。

その優しい手が日差しのような暖かさを感じる。

シアナに触れる度に、恐怖がスッと消えていく。

新垣は立ち上がり、そのまま彼女の方へと向く。


「もう大丈夫です・・・」

「そっか、トラくんが言うなら大丈夫だな!」


何故だか、妙な信頼されているような気がする。

少々怪しく思えたが、今は信頼しても良いだろう。

それに抵抗したって、現状をどうする事もできないのだから。


「これから、どうするんですか?」

「そうだね、じゃあ、本題に入ろうっか」


そうすると、シアナは指をパチンと綺麗に鳴らす。

瞬きをした瞬間、昔の貴族たちが使ってそうな、小綺麗な木の椅子と丸いサイドテーブルが出てくる。

テーブルの上には花瓶の中に白い百合の花が供えられ、周りに紅茶、クッキー、砂糖などが置かれた。


「ずっと、立っているのも疲れただろう?紅茶も用意しておいたから、座って」

「あ、ありがとうございます」


誘われるがままに、新垣は座る。

ティーカップが入った紅茶を見ると、自分の顔が映っていた。

その様子を見た、シアナは言う。


「毒なんて、入ってないよー、君は意外と警戒深いねー」


そう言って、シアナはお皿を持ちながら、紅茶を静かに啜る。

一息ついた所で、テーブルに両腕を付き、そのまま手を組む。


「さて、本題なんだけどね、トラくんはボクと一緒にもう一つの世界の"ローレンス"に来てもらいたいんだ」

「もう一つの世界ですか・・・」


シアナはコクリと頷く、そのまま流し目で見つめるように話し続ける。


「こう、言いにくいけど・・・私の力が抑えきれずに、ローレンスに一部のカタストロフィ因子が漏れ出てしまったんだ」

「え、それやばくないですか?」

「うん、やばいんだ」


先ほど、まで言っていた大災害とは大丈夫なのかと思っていると、心を呼んだと言わんとばかりに答えを言う。


「あの世界はいわば"ご都合主義"なのさ、カタストロフィーの因子なんて、キミの元の世界では大災害でも、あの世界ではただの"強敵"でしかないのさ」

「強敵・・・?」

「ああ、強敵さ、大災害までにはならないけど、その強敵を放置してしまえば、ペロー童話みたいに血なまぐさく惨い結果にしてしまう、カタストロフィはそう言うのが大好物なんだ、その物語を成立させてしまえば、糧となって力を増し、今はボクの力で抑えているけど、いずれはこの力でも抑えられなくなってしまうんだ」


思っていたより、話は深刻だった。

シアナはお皿に乗った、クッキーを手に取り口の中に入れる。

新垣も喉が渇いてきて、テーブルの置いてある紅茶を恐る恐る飲む。

普通に美味しかった、それを見たシアナは嬉しそうにするが、話を戻す。


「だから、その因子をおびき出す為に、君を連れ行きたいんだ」

「でも、それじゃ、器である、俺を連れて言ったら逆効果なのでは?」


おびき寄せるのは分かったけど、危険な事には変わりなかった。

シアナが言うには、俺の身体はカタストロフィは引き付ける程の適性を持っている。

なら、もし失敗したら?

すると、シアナが「大丈夫だよ」と一言言って、紅茶をすする。


「すくなくとも、ボクの近くにいる限りは、因子如きなら手出しなんてできない、保証するよ。なんたって、弱っても女神だからね」


そう断言する。

ティーカップに入っていた、紅茶を飲もうとすると、既に空っぽになっていた。

いつの間にか飲み干したようだ。

シアナは人差し指でくるくると回すと、ポットが浮かび、カップに紅茶を注いでくれた。

魔法だ。魔法が目の前で使われたことで、少し心が躍った。


「さて、トラくんはどうする?」

「どうするか・・・」


このまま、元の世界に戻っても、死ぬには変わりない、自分だけではなく周りを人達を巻き込むとなれば・・・もっと嫌だ。

胸を押さえ、目を閉じ頭の中で葛藤する。

心臓の鼓動を感じ、改めて自分を生きている事を実感したところで目を開ける。


「分かった、やるよ。この際、飛び掛かった船だ、最後まで足掻いてやるさ」

「そっか、ありがとう!トラくんこれからよろしく!」


そう言って、手を出し握手を求めてくる。

答えるように、その優しい手を握り返した。


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