降り続いてもやまない雨はないように、戦いにも終わりがあると信じて

@matou

第1話プロローグ

 ザーザーという耳障りな音で、遠のいていた意識が浮上してくる。体を濡らし体温を容赦なく奪っていく感覚と、今なお体から流れ出る温かい何かの感覚と相成って気分は最悪に近い。


 刻一刻と遠のいていく意識、もうこのまま寝てもいいんじゃないかと思うほどの倦怠感を追いやり、気だるげに目を開くと、目の前は灰色の雲が空いっぱいに広がっていた。朝起きた時からずっとかかっていた雲だが、ついに雨が降り出したようだ。




 周囲を見渡せば、戦闘の際に早々に焼けてしまった木々が見えるのみで動いているものは確認できない。先ほどともにいた仲間達も、この様子ではもう近くにはいないのだろう。それも当然なことで、視線を下に向ければ地面は赤く染まっており自分は血だまりの中に倒れている。そのことから仲間たちからは死んだと思われたのだろう。




 耳をすましてみれば、遠くのほうでいまだに轟音が鳴り響き続けていることから。敵との戦闘はまだ終わっていないらしい。




 「っ……倒れている暇なんかない」




 動かぬ体に鞭打って、体を起こしやすいようにうつぶせにしながら自分が着ているハイドラギアの魔力炉に魔力を通すと、それに呼応するように青い光が走り起動を知らせる。




 ハイドラギアは、長きに続く戦争が始まってから作られた魔力で駆動する強化外装だ。今でも研究が進められており、軽量化や魔力効率が挙げられている。現在主流になっているのは第五世代で開発当初よりもかなり技術が進み、部分的に金属を使いそれ以外には魔力被膜というもので覆って防御力を上げるという画期的なものになっている。




 それでも壊れるものは壊れるもので、『ライン』の着ているハイドラギアはもはや正常に起動するかも怪しいくらいに動きが鈍く、金属部分のパーツからは火花が散見される。通わせた青い魔力光は今にも消えてしまいそうなほど淡い。




 だが当の本人はそんなことを気にも留めずに、近くに投げ出されていた軍支給の自動小銃を拾い杖代わりにしてぐっと力を入れて立ち上がった。そして、仲間たちが行ったであろう方向に向かって進み始める。




 「行かなくちゃ」




 思い浮かぶのは、悲しみに目にいっぱいの涙を流しながら彼女の顔。そして、憎悪や嫌悪で歪む仲間たちの顔。それらの顔を思い出すだけで胸が張り裂けそうになりながらも、歯を食いしばって耐え先を歩む。行った先に待っている敵と、それに向かってい行った仲間を追いかけて。




 最も心を置いていた人に撃たれても、仲間じゃないと言われ心無い言葉を浴びせられても、ここで一人寝ているのは間違っていると思うのだから。




 たとえ、”本当の意味で彼女たちとの仲間になれないのだとしても”心だけは仲間であり続けられるようにと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

降り続いてもやまない雨はないように、戦いにも終わりがあると信じて @matou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ