最終章 生活?

「おい、涼、いるか?達也だぞ。」

涼の仕事先から聞いた住所によるとここに住んでいるようだ。

涼の仕事先から最近、仕事に来ていないということで特別に住所を教えてもらったのだ。それまでも幾度と涼の仕事場に話を聞きに行ったがもちろん追い返えされるばかりだった。

涼の住所が分かるまで5年もかかった。

住所を教える会社もどうかと思うが、今回ばかりはありがたく聞き入れた。

それほど、人材を失いたくないのだろう。

それにしてもさっきからドアを叩いているがまるで反応がない。

これ以上呼んでは周りの住民に迷惑である。

最後の可能性をかけてドアノブを持つ、そしてゆっくりとひねると扉は開いた。

防犯のなさに呆れつつもそのまま扉を開いていった。

開くと、玄関があり、その前にはキッチンがあった。

左の曲がり角から太陽の光と、人工の薄暗いオレンジの光が漏れていた。

「おい、涼いるのか。」

「達也か?家を出てくれ。頼む、今は…」

涼の声が聞こえた。しかしその声は明らかに元気がなく、生気のある声ではなかった。

「おい、大丈夫か?」

僕は左の曲がり角の所まで歩いた、左右には部屋が二つあり、左の部屋からオレンジ色の光が漏れていた。

「おい、入るぞ?」

僕は引き戸を開いた。

オレンジ色の光に包まれ僕は一瞬、目をつむる。

そして目をあけるとそこには涼がいた。

涼は身体を丸めて座りながら小刻みに震えている。

その部屋の壁全面には何かよく分からない写真が貼られていた。枚数が多すぎて重なり、そして破れている箇所も多い。

「涼、どうしたんだ。この写真はなんだい?」

涼は震えながら答える。

「これは、咲歩だ。魅力的だろ。興奮して眠れないんだ。なにか、眠れる方法はないかな…」

涼の言葉を聞き、近くで写真を見ると確かに女の人の胸や、なにかあざのようなものが写っていたりする。

明らかにおかしい涼の姿と、写真の中の異常な女の姿に動揺しないように落ち着いて質問をする。

「この写真、全部君が撮ったのかい?」

涼は小さな声で“ちがう”と言った。

「なぁ、涼。会社の人から聞いたよ。奥さん亡くなったんだってな。僕、サキさんを捨てた涼を許したくないけど今の涼を見てるとその咲歩さんのことが好きだったんだなって分かったよ。」

涼は何も口を開かない。

「涼、またご飯とか行ってさ、楽しもうよ。」

“たのしむ?”

「あぁ、そうすれば元気もでるだろ?」

(「涼、今あなたが楽しいって思えるのはどんな時?」)

“僕が楽しいって思えること”

“それは…”

涼はゆっくりと立ち、僕の横を通り過ぎた。

「涼、どうしたんだ?」

僕は、どこかに向かおうとする涼についていく。

すると、涼はキッチンの前で立ち止まった。

“僕が楽しいって思えるのは”

「涼…やめろよ。」

“サキといる時間だった”






血は涙のように僕の心臓からゆっくり流れ、達也の前で倒れた。

結局僕は自分勝手で、

最後まで、手に取りやすい可能性に生きる目的を見出してた。


生きる目的?

楽しいって思えること?

楽しさを与えてくれる人間はもう僕にはいない。


大切な人?

本当に大切な人は、自分だ。



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僕の君 三日月 @mikazuki666

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