スカーレット・レイン
キャラ&シイ
闇夜の赤
ポツポツと頭上より、冷たい水滴が降り注ぐ。
(うわっーー雨だ、マジかよ!?
くそっ....俺、傘なんて持ってきてねぇぞ?)
会社からの帰り道で、小雨に遭遇した俺は雨宿りできる場所を求め駆け出す。
そして、足早に進むこと数分....。
俺は漸く商店街の一角で、雨宿りできる場所を探し当てる。
その商店街は一応、多くの店が連なってはいるが、その約半数が既に廃業しており、俺の帰宅時間には全ての店が、閉まっている状況だった。
(いや~、まいったな....。
早く止んでくれると助かるんだけどな?)
小雨とはいえ、それなりの降雨量であり数分間もこの雨の中を歩き続ければ、ずぶ濡れになるのは間違いあるまい。
しかし、そんな中を人影が一つ。
赤い衣服を纏う少女だ。
彼女は明らかに不自然に、街灯下へと佇む。
周囲を照らし出す、か細い灯りのバラそ、んでいるふすにその少女は静かに佇んでいた。
雨の中をびしょ濡れになりながら‥‥。
少女は何かを見据えるかのように、上を見上げている。
雨に濡れた長い黒髪が顔にまとわりつき、表情こそ読み取れないが、何故か俺には少女が何かを悲しんでいるように感じた。
だが、その直後、俺は不意にある奇妙な点に気付く。
趣味の足元に雨水を伝い広がる赤い色....。
それは、少女が纏う衣服と同じ赤い色。
俺は少女が纏うブラウスから除く、僅かな白い部分がある事に不意に気付く。
つまり少女が纏う衣服は元々、白色の衣服。
そして、少女の衣服を赤く染め上げているものは恐らく....。
ーー人間の血液ーー
だが、それが血液だとするなら何故、少女は平然と佇んでいるーー?
俺の脳裏を、そんな疑問が駆け巡った。
それは至極当然の疑問‥‥。
少なく見積もっても、少女の周囲を染め上げる赤き液体は、三リットル以上は流れ出ているように思える。
そして人間が保有する血液量で換算すると、それは間違いなく半分以上が流れ出でているように見えた。
それは言うまでもなく、出血多量という用語が当てはまる状況である。
しかし、俺はその直後、更に驚くべき現状を目の当たりにした。
不意に少女が体勢を変え、俺の方に僅かながらに背を向ける。
その瞬間、俺は少女の背に突き刺さる大量のナガモノ。
(そ、そんな.....そんな馬鹿な!?)
あまりの非現実な光景に、俺は思わず目を背けた。
しかし、それは当然のことだろう。
目前に、時代遅れとしか思えない旧世代の武器の数々が、少女の背中を貫いていたのだから....。
だが、しかし本当に目を背けたくなる瞬間は、この先にこそあった。
俺があまりの衝撃的な光景を目撃し、少女から目を離せずにいる中、突如巨大な斧が上空より飛来する。
斧はものの見事に少女を頭上に降り注ぎ、脳天から真っ二つに切り裂く。
その直後、少女の身体は二つに分かれ、地面へと倒れ込む。
しかし、それで終わりではなかった。
更なる巨大な凶器の飛来。
巨大なハンマーや大剣等が突如、少女の上に降り注ぐ。
そして、少女の身体は【ぐちゃ】っという生々しい音が鳴り響き、少女の体は原型をとどめない細切れの肉塊へと変わる。
あまりにも現実離れした光景を目の当たりにし、俺の足は恐怖ですくむ。
そして、俺は呆然と少女がひき肉に変わっていくのをただ見守る。
その直後だった....不意に俺の口の中に、何かが落下した。
「ゴホッ!?」
次の瞬間、何か口の中に入ってきた事に驚きながら思わず咳き込み、その何かを吐き出す。
その刹那、口内に鉄臭い味が広がる。
俺は慌てて右手の袖口で、口を拭いながら袖口を確認した。
やや、澄んだ色彩の赤。
それは確認するまでもなく、少女の血....?
「ぐほっーー!?」
俺は、口内に広がる生臭い鉄の味を拒絶するかのように、思わず咳き込む。
早まる鼓動、蒸し返しるような息苦しい空気。
だが、次の瞬間、俺は奇妙な感覚に襲われた。
弾むような高揚感が駆け巡り、股関が煮えたぎるように脈打つ。
(う....嘘だろ?)
俺は自らの内に訪れた異常さに、思わず絶句した。
(俺は目の前で少女が挽き肉に変わっていく、残酷なる光景を目にしながら興奮しているのかーー?
い、いや、そんな筈あるか!
こ、これは何かの間違いだ!)
俺は自分自身の身に生じた自らの異常性を必死に否定しつつ、その言い訳を探すように周囲を見渡す。
その直後である....俺の右手に何かが触れた。
やや、粘り気がある液体に塗れた塊。
それは恐らく、俺がさっき吐き出した何かだろう。
だが、一体なんだーー?
俺は悪い予感を感じつつも、ゆっくりと視線を右手側に向け確認する。
そして、俺は即座に自らの軽率さを後悔した。
何故なら、俺の右手に触れたもの....それは切り刻まれ、半ば潰れかけた眼球だったからである。
それが誰の物なのかは、考えるまでもない。
それは間違いなく【あの少女の眼球】に他ならなかったからだ。
「ひっーー!?」
俺は驚きのあまり、小さな悲鳴を上げる。
恐らく、俺の顔からは血の気が引いていたに違いあるまい。
そして、俺が悲鳴を最小限度のものに止めたのは、今が危険かつ異常な状況である事を俺が本能的に感じとっていたからだ。
下手に目立つような事をすれば俺にも、あの少女の身に起きた災厄が訪れる可能性がある。
だが奇妙な事ではあるが、この様な危険かつ緊迫した状況にありながら、俺の心は妙に落ち着いていた。
頭の中は風の吹き抜ける草原のように、落ち着き払う。
俺は音と気配を可能な限り殺しながら、ゆっくりと移動を開始する。
見付かれば、命取りになるのは明白。
俺は可能な限り息を止めながら、静かに移動を続けた。
呼吸を殺し、足跡を殺し、気配を殺す。
その後、何処をどう歩いたのだろうか....?
ただただ暗がりを、ひたすらさ迷い歩いていた記憶だけは僅かに残っている。
そして、気がついた時には俺は目前にアパートの前に立っていた。
虚ろな意識と何とも言えぬ恐怖を引き摺りながらーー。
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