深紅の災い

降り注ぐ雨....。


(雨か....本降りにならないと、いいんだがな?)


預輝は溜め息をつきながら、薄暗い空を見上げる。


手元に傘がないのだから、そう思うのも当然だろう。


しかし、その直後、預輝はある異変に気付く。


降り注ぐ雨....。


だが、その色は通常の雨の水滴ではない。


深い深紅の色をした滴。


それは見覚えのある赤い色。


それは......。


(これは雨じゃない、血だ!!)


震える手で預輝は、血液特有の深い赤色の滴を見詰める。


その血液の滴り落ちた先を見下ろすと、預輝の足元に、赤と白が混じり込む球体が転がっていた。


その球体とは、人間の眼球....。


そして預輝は、この眼球に見覚えがあった。


(これはあの少女の....?)


喉元に込み上げてくる吐き気。


だが、奇妙な事に、それとは異なる歓喜にも似た高揚感が突然込み上げてくる。


それと正常なる者が決して抱かない、異常者としての感覚....。


眼球を口にしたいという欲求が、まさにそれだった。


(ちょ....ちょっと待てよ、これ人の目玉だぞ!?

何を考えてるんだよ俺は!??)


しかし、そんな預輝の正常なる思考とは相反し、預輝の右手は足元に転がる眼球に向けられている。


(何やってんだ俺は!?

バカ、止めろ、そんなもの取るんじゃない!)


だが、意に反して、預輝の右手は眼球へと伸ばされて行く。


そして、預輝の右手は躊躇なく眼球を掴み取る。


それは、少女の眼球に間違いあるまい。


(こんなものを手にして、俺は一体これをどうする気なんだ?)


預輝は自分の不可解な行動に思わず、自らの内で疑問の声を上げた。


しかし、そんな預輝の疑問に対し次の瞬間、即座に答えが突き付けられる。


眼球を拾いあげた自らの右指先が、口元へと向かい初め....そして。


(よ、よせ、止めろ!?)


だが、如何に叫ぼうとも声は出ず、眼球を持った右指先は預輝の口元へと進み続ける。


しかし所詮は意識のみの抵抗。


全ては無駄な足掻きに過ぎなかった。


預輝は、その眼球を無造作に咀嚼し直後、生臭い粘り気のある感覚と妙に鉄臭い味が口内に広がる。


そして、次の瞬間、預輝の意識は泥沼のような暗闇の内へと引き摺り込まれていった。


周囲は光一つ射さぬ暗闇。


幾ら足掻こうとも、預輝は身動き一つままならず、その闇の中を漂い続ける。


五感はほぼ機能せず、ただ唯一、生臭い鉄の味だけが口内に残り続けていた。


心の内側を少しずつ侵食する不安と孤独....。


心臓を何者かに鷲掴みにされているような、恐怖と苦痛。


しかし、そんな混沌とした闇の世界に突如として一筋の光が射し込む。


そして、預輝は祈るような気持ちで光を見据えるべく、必死に目を見開いた。


・・・・・・・・・・・・。


・・・・・・・・・・。


・・・・・・・。


一筋の光が射し込む空間。


(ここは......俺の部屋か?)


預輝はしっくりとこない状況に困惑しつつ、呆然と窓際を見据える。


(あれは....夢......だったのか?)


状況から考えて、それ以外に答えなど無いのだが、預輝は現在の状況が釈然せず思わず考え込む。 


しかし、それも当然だろう。


それほどまでに今、見た夢が生々しくリアルだったのだから。


預輝は額から滴り落ちる冷や汗を、ティッシュで拭いながら、心を落ち着けるべく呼吸を整える。


だが、その直後、不意に妙な違和感が預輝を襲う。


預輝は即座に違和感を発する先へと、視線を向けた。


そして....。


聳え立つ山の如くある異質なる物体。


考えるまでもなく、それは預輝の股関で猛威を奮う一物である。


(くそっ!?

マジかよ、俺の体は一体どうなっちまったんだ!?!)


預輝は思わず溜め息をつく。


だが、この時の預輝は知るよしもなかった。


こんなものは、これから訪れる災いのほんの序章にしか過ぎないという事をーー。

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