宿命か運命か~み~

「とうさん! あ! やっぱりここにいた! 次に帰ってきたら、遊んでくれるって約束だったろ!」

「こら、まーくん。ダメでしょ! あなた、ごめんなさい」


 緊張の糸で張り詰められた部屋が、小学生くらいの頬に絆創膏をつけた男の子と、後を追うようにして入ってきたどこか幸が薄く、はかなげな女性によって切られた。


 弥勒みろくはそれを見るなり、「こら!」っと、大きい声を上げて、眼鏡の奥から目を大きく見開き、駆け寄った。

いつも冷静な弥勒みろくからは想像出来ない姿に、先程までの緊張とは別の色の緊張が走る。


 それは弥勒みろくがまーくんと呼ばれた少年の前まで移動した時に解かれた。


「まーくん。だぁめじゃあなぃかぁ、ここは入って来ちゃあ。いつも言ってるだろぅ」


 普段の弥勒みろくからは想像出来ないほど、甘ったるい声でまーくんと呼びかけた少年を抱きしめ、部屋の外へと連れ出した。


 「なにあれ」あらうは、座っていた椅子から転げ落ちていた。


その質問に、純次が黙ってプロジェクターに映し出された画像を指差した。


「……。あー、このグロいのを息子さんに見せたくなくて、誤魔化したのか。大きい声を出して、自分にだけ集中させて、その隙に連れ出すとは、見事だね。それにしても、さすが目の付け所が親らしいね。じゅんさん」あらう悪戯いたずらな笑顔を浮かべた。


 部屋の外から叫び声にも似たふざけている弥勒みろくの声が聞こえる。その音が遮るように、入ってきた女性は扉を閉めた。


「純次さん。お久しぶりです」

「お、おう。久しぶりだな。あまね」純次と、女性を交互に見直したあらうは、並々ならぬ雰囲気に空気をよんで、気配を消した。

「お変わり……、ないようですね」

「そっちもな。げ、元気そうで何よりだよ」


 「えぇ。お陰様で」そう応えた女性は、どこか寂しげな表情を浮かべている。


 少しの沈黙の後、静かに部屋の扉が開かれ、そこから顔を出した弥勒みろくは何かに取り憑かれたようにげっそりとしていた。


「食事にしませんか? 私ではもう抑えられ、ぐまむぅまぁわぁぁあー!」


 扉が勢いよく閉められ、また部屋の外では声が響いている。


 ――弥勒みろくさんのふざけていた声だと思っていたけど、どうやら叫び声だったみたいだね。それにしても、弥勒みろくさんにあんな一面があるなんて。ネタとして残しておこ。


「あの子ったら、お父さんが帰ってきて嬉しいんだわ。いつも寂しい思いさせてしまっているから」

弥勒みろくは忙しいからな。それにしても、なかなかわんぱくな小僧だな。そろそろ助けてやらないと」


 純次とあまねは部屋の外へと出て行った。残されたあらうは、再度ビカーのものと思われる模様の前へと、移動した。


 一度抑えた狂気が、あらうに満ちている。その狂気を吐き出すように、映し出された画像の壁を殴る。


「こいつらは、俺から全てを奪ったこいつらは、俺の手で必ず……」

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