桜の木に宿る悪魔~む~
純次が
様々な種類の樹木が池の周りに立ち並び、
美しい風景の中に一本だけ桜を散らす木が佇んでおり、その根元には目を向けることが、神への冒涜になるような光景が広がっていた。
かつて、純次は世界を周って様々な地域を旅した。
その中には、紛争地帯や貧困に苦しむ地域も多く、周った数とは大きく反比例した数の死に触れた。
栄養失調を含む飢餓による死、暴動やレイプといった暴力的な被害にあっての死、極度のストレスからの自殺による死、色々な『死』と向き合ってきた純次でも、今回の事件現場を見て、手を合わせる暇もなく吐いた。
その場だけが、時が止まったかのように錯覚させられる光景、一つの絵画のような現場には、人であったことの痕跡が僅かにしか残していなかった。
『頭』、『体』、『右腕』、『左腕』、『右足』、『左足』、『右腕の親指』、『右腕の人差し指』
「……『左足の薬指』、『左足の小指』、とにかく目に見える体の部位は全て切り離され、人だったと認識するのには時間がかかりました。もちろん、体からは贓物が抜かれた上に、無造作に身体の周りに散らかっているのは今までのやり口と同じです。じゅん。大丈夫ですか?」
先程まで陽気に飲み干した炭酸を全て出し切った純次は、黙って頷き、質問で返した。
「『それ』はなんだ。情報が出回ってないぞ」
「当たり前じゃないですか。公表出来るわけないですよ」
昨日の夜に食べたラーメンまで出てくるんじゃないかと鬼気迫る思いで、吐き気を我慢し、顔を青くしている純次の背中をさすりながら、純次の言う『それ』に
『それ』と純次が冷静さを失い、
――それは、花びらのような形。
――それは、花びらのような薄さ。
――それは、花びらのような色。
それは、えぐり取られた人の皮、肉、臓器から作られた桜の花びらだった。
「これも含め、ここから先は三年前より情報操作により、公式発表していない内容になります。もちろん、今回の事件についても、詳細は公表しないです。じゅんなら心配はいらないでしょうが、もし漏れるようなことがあれば、命の保証はしませんよ」
そう言って微笑み、
「被害者の男性は
「その理由は現内閣総理大臣
「そうだ。最近ようやく新聞にも目を通して、ニュースなんかも観るようになって、成長したなぁ。あら」
「……あら?……っておい! 自然か? いつの間に来てたんだよ。普通に声かけろよ!ったく」
悪戯な笑みを浮かべた
「よく来てくれましたね、あら。ありがとうございます。でも、この間みたいなのは勘弁して欲しいものですね」
そう言って微笑んだ後、せっかくセットし直したのにとボヤいた
「この間は迷惑かけちゃってごめんね、
「あら。そろそろ【対話】を始めてくれ」
「うん。わかった。でも、その前に一ついいかな?」
そう言って、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます