桜の木に宿る悪魔~ふ~
降りてすぐ、
「大丈夫? 怪我はない?」
「あ、はい。 怪我は……ないみたいです。あ、ありがとうございます」
女性の言う通り、外見には目立った怪我も無い。無事なようだ。
「君にぶつかったあの男が持っていったものは君のだよね?」
「そ、そうなんです。街中の写真を撮っていたら、急にぶつかってきてカメラを……」
そう言った女性の目は潤んでいた。
「そっか。じゃあ僕が来たのは丁度よかった」
「僕はこう見えても何でも屋兼探偵……の助手だから。そうだ!『依頼』してよ」そういって、
「え?」
「カメラ取り返したいでしょ?」そう言った
「え、えっと、その。お、お願いします」
頭を下げていたことで、顔は見えなかったが、声からは盗られたカメラへの諦めと、悲しみが感じ取れる。
――
溜息を吐いた後、男の逃げた方に向き直った
――体格差は否めないね。
黒いニット帽に、黒い服、その辺りまでは記憶していた
「うん。仕方……ないな」そう呟くと、遠くを見据え、辺りを見渡し始めた。
大きな通り沿いの、人通りが多い道。今の騒ぎから、野次馬が多く、ざわついている。だが、
人の心や想い、思考など、それらを視覚や聴覚といった、五感から感じ取り、
――この人かな。印象としては、体格とは反比例して、凄く小さな鬼。声は高く、耳障り。これは……はは。小物感が凄いな。
「見た目ばかり虚勢を張るクズだね」そう呟き、男が逃げた方と反対方向に駆け出した。
一本目の道を左手に曲がると、100メートル程先に周りを警戒し、落ち着かない様子の男の姿が目視出来た。
――最初に向かった方向とは逆に向かうことで、振り切ろうとでも思ってたのかな……。頭の悪い人だ。
突然現れる
後ろから近づいてくる
「ねぇねぇ。おじさん。子供の頃に習わなかったの? 人の物を盗ったらいけないって……」
「うぉ。なんだてめぇは」
足音もなく、突然背後から声を掛けられた男は、驚きを隠せなかった。焦る男に
「本当はさ。面倒だったし、後ろから飛び蹴りでもして、一撃で意識飛ばそうかなって思ったんだけど……。そのカメラを壊すわけにもいかないし、まずは話が通じる相手かを確かめたくて」
「あぁ? なめてんのかクソガキが」
「ははは。いやいや、なめてなんかないよ。それよりさ、なんであれだけ通りには人が沢山いたのに、彼女のそれもわざわざカメラなんて狙ったの?
「まぁ。それも取り返した後にでも答えてもらおうかな。どう? 僕みたいな『クソガキ』に地べたに這いつくばらさせるのは嫌でしょ? ここは一つ、素直にカメラを返すっていうのは?」
その言葉を聞き終える間も無く、逆上した男は
「急に危ないなぁ。当たったらどうするの? やっぱり言葉が通じないみたいだね」
「本当によく口が回るクソガキだな。次はねぇぞ。一発お前の横っ面に俺の拳が届けば、最低でも、びょうい……」
「いいよ。もう……」少し被せ気味に
「かかってきなよ」既に、先程までのふざけた姿はなかった。
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