紅い白墨(チョーク)

紅い白墨(チョーク) 第1話

 私の友だちの家成ショウヤくんが、アイリちゃんと私を誘ったのは、長くしとしとと続いた雨が珍しくあがった、6月のとある木曜日のことだった。

 授業も終わり、図書委員の当番でもなかった私は、青ブチ眼鏡の奥で面白そうに笑うショウヤくんの目を見つめ、釣られたように笑顔になる。

 笑顔で見つめ合っているように見えたのかもしれない。アイリちゃんは「あ~あ、ごちそうさま」と大げさにため息をついて、ピンク色のランドセルを背負った。


「でも、めずらしいじゃない。ショウヤの方から誘うなんて」


「そうですね。いつもは私たちの方から誘わないと、すぐにどこかへ飛んでいっちゃうんですから」


「そうかな?」


「そうよ!」

「そうですよ!」


 声を合わせてそう言ったら、ショウヤくんは少しのけぞって、照れたようにまた笑った。

 ちょっと声が大きかったかもしれない。占いの雑誌にきゃあきゃあ笑っていた友達が、一斉にこっちを振り向いた。

 ショウヤくんは軽く手を挙げて何でもないと謝ると、私たちの方に顔を戻した。


「統計的に、今日をのがすと、次の『晴れた火曜か木曜』は、6月中には来ないからね」


 メガネの端を軽く持ち上げ、黒いランドセルを背負う。

 火曜か木曜。

 図書委員の当番がお休みの日。

 ショウヤくんがそれを覚えていてくれたことが嬉しくて、顔が熱くなる。


「なにしてんの、シオン、行くわよ」


 顔を赤くして下を向いている私の背中をぽんと叩いて、アイリちゃんがショウヤくんの後に続く。

 あわてて帰りの支度したくをして、私たちはいつもとは違う帰り道へと向かった。

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