第28話

「別に殺す気などありませんでした。本当に事故だったんです。口論となった原因というのは、お恥ずかしい話ですが、私の不倫が原因でした。

 それは、いまから10年ほど前のことでした――いえ、けして忘れたとは思っていません。

 でも、あの子は事あるごとにあの話を持ち出すんです。今回もそうでした。

 亜由珂の機嫌が悪かったのか、些細なことで口喧嘩になり、私も大人げなかったのですが、あまりにも卑劣なことを口にしたものですから、つい足元にあった腰ひもで亜由珂の首を――」

「絞殺したんですね?」

 松永刑事は顔をしかめながら訊いた。

「はい、申し訳ありません」

「で、それはいつ?」

「3ヶ月ほど前になります」

 芳恵は鼻を啜り上げながら答える。

 そして芳恵は声を出して泣いた。泣き声は狭い部屋に重く響いた。

「わかりました、奥さん。それで、娘さんはどこに――」

「――」

 芳恵は黙っている。

「奥さん、ここまで話したんですから、すべてを話して楽になってください」

「……はい――じつは、あの子は、家の庭の、椿の木の下に――」

「埋めたんですか?」

「はい」

 芳恵はこくりと首を立てに動かした。

 松永刑事は窓際に佇むと、指先でそっとブラインドをそっと押し開いた。

 窓の外はすっかり闇に包まれ、窓に映る部屋の情景のすべてが、これまでのことと無関係であるかのように見えた。



                (了)



 最後まで読んでいただきありがとうございます。

 他にも多数作品がありますので、そちらもお楽しみください。

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