第27話
「奥さん、もういいですよ。
これを書いたのは奥さんだということがわかってるんです」
松永刑事は、茶封筒の中から一通の封書を取り出した。
「これなんですけどね、ご主人からお借りしたんですよ。
これはですねェ、アメリカのご主人に娘さんが出した手紙なんですよ。
これを見てください、手紙とノートの筆跡が似ているようですが微妙に違うでしょ?
早い話が、ノートは娘さんが書いたものとは違うということです」
松永刑事は拱手したまま、鋭い眼光で芳恵を見据える。
「――」
芳恵は小首を傾げて、理解不明といった表情を見せる。
「いい加減に白状してくれませんか、こちらはすべてわかってるんですから。もう一度訊きます。このノートを書いたのは奥さんですね?」
松永刑事はかっちりとした言葉で確認をする。
芳恵はしばらく黙っていたが、やがてこらえきれなくなり、掌で顔を被い、肩を揺らすようにして嗚咽を洩らした。
「間違いないですね?」
と、松永は念を押す。
芳恵は言葉を発することなく、ただ一度だけ首を立てに振った。
「娘さんの部屋に筆跡のわかるものがなかったのは、奥さんが処分したのですね?」
「はい。私が処分しました」恰恰
もう一度首を立てに振った。
「で、娘さんはどこに――?」
芳恵が話し出すのをしばらく待つのに、胸のポケットからフリスクの函を取り出し、ふた粒口の中に放り込んだ。
大きく吐き出した息に、何か変化が起こるような気がした。
「すいません、私が娘を――」
芳恵は途切れ途切れの言葉で話しはじめた。
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