31

想像していたものとは全く違う形になったけれど、白雪ぼくも無事に目を覚ます事が出来たし、みんなともまた話せるようになった事で、和やかな雰囲気に包まれかけた時。


「今の大きな音は!?」

「皆様ご無事ですか!」

「ガラスが割れている……。まさか襲撃か」


突然勢い良く扉が開いて、何人もの武装した兵士が流れ込んできた。

部屋の床には割れたガラスの破片や棺に敷き詰められていたたくさんの花が散らばっているし、小人たちはなぜか泣いたような顔になっているし、エミル様は新しく登場した白雪ぼくに興味津々な様子だし、何より死んだと思っていた少女が普通に起き上がっているこのカオスな状況。

流石の兵士たちも一瞬呆気に取られていた。

でもそこからも流石と言うべきか、僅かな間ですぐ我に返ると統率の取れた動きで部屋の安全確認を始め、同時進行で散らばった花や破片も瞬く間に片付けられていった。




「さて、では改めて話をお聞かせ願えますか」


長テーブルの上座に座ったレオン王子が司会よろしく場を仕切る。

あの後、当然ながら「目が覚めたので帰ります。お世話になりました。さようなら」なんてわけにはいかず、レオン様の希望もあって、場所を移して当事者である僕からも今回の顛末と魔女についての話をする事になったのだ。


結構な長い話だというのに急かす事なく聞き役に徹し、僕がどう話そうか迷った時には適切な質問を挟んで話を進めてくれる。

起きたばかりの僕のために胃に優しそうな食事を用意してくれたり、これから帰るのは大変だろうからと、流れるように全員分の宿泊の手配までしてくれた。

子どもながらにこの手際の良さ。

さらには容姿端麗ときている。

これ将来有望すぎじゃない?


「ねぇドク、白雪ちゃんはどうして生き返れたのかなぁ?」


一段落ついた頃、ドーピーさんが尤もな疑問を口にする。


「これは私の推論になるんだが、白雪さんが落下した時に衝撃で口から林檎の欠片が出てきたんだ。きっとそれが喉に詰まって仮死状態になっていたんだと思う」

「林檎が喉に詰まったくらいで呼吸も心臓も止まるなんて聞いた事ないよ」

「私も聞いた事がないが、相手は魔女だぞ。白雪さんが食べたのはただの林檎ではなかったんだろう。毒か魔法が仕込まれていたに違いない」

「じゃあ白雪ちゃんは、林檎が喉につかえたから助かったって事?」

「恐らくそうだと思う。幸か不幸か、あまりの強さ故に完全に飲み込む前に効果が出て、飲み込まれなかったから仮死状態になったんだろう」

「白雪ちゃんはラッキーだったんだねぇ」

「結果だけを見ればまぁ……、ある意味ではそう言えなくもないか。だが今度もまた助かったとなると、白雪さんを狙うのにいよいよ形振り構わなくなってくるかもしれないな」


僕が知ってる『白雪姫』の最後はどんなだったっけ。毒林檎を食べて倒れた後、王子様のキスで目覚めるシーンは印象深かったからよく覚えている。……というか実のところそれくらいしか覚えていない。魔女の最後なんて描かれていたかすら記憶が曖昧だ。


「白雪姫」

「は、はいっ」


すぐ横からレオン様の声がして驚いた。

考え事をしていたから、いつ席を立ったのか全然気付かなかった。


「今までさぞ怖い思いをされた事でしょう。ここからは私たちも協力させてください」

「それは、すごくありがたいですけど……。あの魔女をどうにかする算段でもあるんですか?」

「私に考えがあります。簡単にはいかないかもしれませんが、不意をついて上手くいけば捕らえる事が出来るでしょう」

「本当ですか!」

「はい。ですがそのためにあなた方にもお手伝いをお願い出来ますか?」

「もちろんです」

「よかった。ありがとうございます」


レオン様がふわりと笑う。

その微笑みに思わず見惚れてしまった。

だってあまりに──


「美しい」

「えっ」


まさに思っていた通りの言葉が、そう思った本人の口から発せられる。


「実は以前から隣国の姫君の事は耳にしていたのです。実際にお会いしてみて、皆が噂したくなる気持ちも頷けました。これでは魔女が嫉妬してしまうでしょうね」

「あ、あり、ありがとう、ございます……」


これはぼくじゃなくて、あくまで物語の白雪姫に対する言葉だと頭ではわかっていても、今この瞬間真っ正面からその言葉を受け取っているのは僕である。

こんな褒められ方をした事はないから、返答がしどろもどろになってしまうのは許してほしい。

でもこの直後、レオン様の言葉で僕は完全に固まる事になる。


「いきなりこんな事を言ったら驚かせてしまうかもしれませんが……、私と結婚していただけませんか?」




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放課後、図書室で 柚城佳歩 @kahon

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