エピローグ

昔々、天上の神さまが人間世界の物事をあれこれ決めていたころの話

その日神さまは棒の役目を考えていました。

眼の前に並ぶ長さ太さの不揃いな十本の棒。

ステッキ、ケーン、ロッド、スティック、スタッフ、

クラブ、タクト、ポール、バトン、そしてウォンド。

神さまは十本の棒にそれぞれ別の役目を与えました。


ステッキ は 人の体を支える棒、

ケーン  は 軽技師の舞の棒、

ロッド  は 魚を取る竿としての棒、

スティックは 茶や薬を混ぜる匙としての棒、

スタッフ は 地を測るに用いる棒、

クラブ  は 武具棍棒として用いる棒、

タクト  は 楽団をまとめる指揮の棒、

ポール  は 地面に突き立て印にする棒、

バトン  は 走り比べの引き継ぎの棒、

そしてウォンドは、畑を耕すに用いる棒、


みなが役目をもらって頑張りましょうとわいわい言っている時に

ウォンドだけはうんざりしていました。

僕が農具なんて嫌だなぁ。そいつはクラブがやればいいんじゃないかな。

バトンなんてくるくる回して踊る演舞にも使われてるのに。

神さまの決めたことだけど、もっと僕にふさわしい役目があるはずだ。


するとこっそり ”悪魔” がやってきてウォンドをそそのかしました。

それならば、魔法使いが使う 魔法の杖の役目はどうだ?

ウォンドはそれがいいと声をはずませて悪魔からその役目をもらいました。

そして神の御許から離れてしまったのです。


しかし悪魔はウォンドに気づかれぬよう、のろいをかけておきました。


―――人の世に魔法なぞあるものか よしんばそれがあったとて

それは人の繰りうるものでなし 魔法とは我ら悪魔のみぞ繰りうるものなり

ウォンドよ 与えし魔法の力で神の子たる人間を壊し 悪魔の子として迎え入れよ

決して時を巻き戻してはならぬ 巻き戻せばお前は何の役目も持たぬただの棒になりさがろう

ウォンドよ 神の子を、人間を壊しつづけよ 我が子を、悪魔の子を増やせ


―――


困った神さまはそばにあった土を固めて

人間のようなものを産み出しました。

頭を布で覆った酷く背の低い怪しげな男。

神さまはその男のようなものに言いました。

「おまえはウォンドのそばにいなさい。

己の欲にのみ素直になれば、人はもろくも悪魔に心を囚われる。

悪魔の子となったものを出来る限り我が御許に連れてきなさい。

どれほど時がながれてもよいから、悪魔の力が封じられるまでそれをつづけなさい。」

土から生まれた、怪しげなその男は

何千年もの間、ウォンドを人間に託してはその人間の心が壊れゆく様を何度も何度も眺めていたのです。


そしてずいぶん時間がたったある日の事、その男はウォンドが魔法を使えなくなり悪魔の力は封じられたと報せに、神さまの御許に戻ってきました。

神さまは人間界の様子を見てにっこり微笑みました。

どうやらウォンドはマジシャンなる技芸を誇る者どもが芸の飾りとして用いる棒になったようだ。それでよい。ごくろうだった。

それにしても人間はたくさんの棒を上手に使いこなすものよ。

神さまは報せに来た、怪しげなその男の頭をやさしくなでて

土に還してあげました。


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ピエールと魔法の杖 ムッシュピエール @magictime

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