第8話 新しき国々
私たちは、魏志倭人伝と古事記をもう一度よく見直してみることにした。古事記からは、卑弥呼=天照大御神=垂仁天皇の一つ前で、やはり、『神』の付く天皇である崇神天皇=伊邪那岐神の国生みを調べてみることにした。
倭国である高天原から、新たな国を生み出すという神話は、きっと倭国以外の国々が綴られているに違いない。そう思って、調べていくと、まず、淡路島、次に四国、次に九州、次に壱岐、対馬、佐渡、そして本州などとなっている。これでは、日本全体であり、倭国と倭国以外の国の違いがわからない。
そこで、崇神天皇記を調べてみると、四道将軍という地方遠征の話が載っているではないか。四道将軍の派遣先は、北陸、東海、西道(山陽道)、丹波とある。また、東海と北陸の進軍には関東も含まれていると考えられる。したがって、これらの地域は倭国ではないことがわかる。この時代にはまだ東北や北海道には至っていないと思われるので、残りは、九州と四国と山陰と関西ということになる。
今度は、魏志倭人伝をもう一度丹念に調べてみると、「女王国の東、海を渡ること千余里、また国あり。皆倭種なり。」とある。東に海を渡って行くということは、東に海が無ければならない。その条件を満たすのは、九州と四国だけとなる。
さらに、「南に侏儒国あり、・・・周旋五千余里ばかりなり。」とあるが、四国の南には島などは無く、倭の行程記述が朝鮮半島から壱岐・対馬を通って記述されており、仮に倭の範囲に四国が含まれていると仮定した場合、少なくとも途中に九州も含まれるため周旋五千余里という記述には当てはまらない。だから、四国とは考えられない。したがって、倭国は九州と言える。
「つまり、倭国の東西の範囲も九州の西岸から東岸までということになるのね。」
『倭国の範囲』
北 朝鮮半島南岸
西 九州西岸 東 九州東岸
南 鹿児島・宮崎
話をもとに戻そう。邪馬台国と投馬国は宮崎と鹿児島ではないかと見当を付けていたので、再度その線で絞り込んでみる。女王国の東に海があるという記述から、女王の住んでいる邪馬台国の東には海が広がっているということになる。すなわち邪馬台国は宮崎ということになる。
宮崎市には生目古墳群があり、その「生目」は「伊支馬」と同じ「いきめ」なので、天照大御神=垂仁天皇の「伊久米」に由来すると考えられる。そして、宮崎周辺には「天岩戸隠れ」を始め多くの神話が残されている。
「そうなると、残りの投馬国は、鹿児島ということになるな。」
「なるほど、なんとか倭国の範囲が固まったわね。でも、まだ邪馬台国の『水行十日陸行一月』という行程記述がシックリこないわ。福岡からだと水行だったら船で博多湾を東に進んで関門海峡を越えて九州東岸をそのまま南に下れば宮崎に着いちゃうわ。陸行する必要ないじゃない。」
「そうかあ、一筋縄じゃ行かないな。」
「もう一度行程記述を見直してみよう。」
一般的には、一大国は壱岐で、末盧国は唐津だと言われているから、伊都国までの行程記述は以下のようになっている。
ここから放射状↓
狗邪韓国→対馬国→一大国→末盧国→伊都国
海千余里↑ ↑ ↑ ↑
南海千余里| | |
海千余里| |
東南陸行五百里|
伊都国は、倭国全体を監察し、帯方郡の役人が必ず立ち寄る場所なので、ここからは放射状になると思われる。
「五百里は対馬と壱岐の距離の半分くらいだから、この行程記述だったら、伊都国は福岡じゃなくて、佐賀辺りになるんじゃない?」
末盧国(唐津) 東→ 伊都国(福岡?)
東南↘
伊都国(佐賀?)
「伊都国は呼び名や遺跡などから福岡県糸島市辺りに比定されるのが一般的なんだ。」
「でもこの記述には暗号なんてないわ。明らかに佐賀方面になるわよ。」
「そういえば、佐賀には吉野ヶ里遺跡っていう弥生時代の大規模環濠遺跡があるぞ。佐賀からなら、筑後川を水行で遡上して、日田辺りから陸行で宮崎まで行けるから、問題解決だ。」
「糸島の遺跡は古くから発掘されていて、『いと』だから、伊都国として認知されるようになったんだろう。これまた大変なことになって来たぞ。こうなったら、一度現地を訪れてこの目で見てみなきゃなあ。」
「美知、お前も行くか?」
「無理よ、学校があるじゃない。」
「そうだなあ。宮崎と福岡か、一人で行ってくるか。息子の大海の顔も久しぶりに見たいしな。今度2~3日休みを取って九州旅行としゃれ込むか。」
「兄貴、元気にやってるかなあ。」
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