俺は仕事ができない

水谷一志

第1話 俺は仕事ができない

 最初のキーワード、【仕事】


 一

 俺は仕事ができない。とにかく仕事ができない。

 今日は取引先との交渉の日である。俺はパワハラ上司と共に相手先との打ち合わせの場所に向かう。

 「あと今回は海外の顧客だからな。

 お前、英語はできるよな?」

 …俺は英語はできる。できるにはできる。しかしこの業界の英語は専門用語ばかりで何を言っているのか分からない。一応TOEIC(トーイック)でそこそこの成績は残しているのだが…。

 「いえ、○○さん、ちょっと専門用語が多過ぎて…、」

「できるよな!」

「は、はい…。」

 俺は相手に押し切られると弱い。それも俺のダメな所だ。


 二 

 そして相手先との交渉が始まる。そこは…、英語という外国語の応酬であった。

 …正直何を言っているのか分からない。しかしパワハラ上司には訊きづらい。

 そして交渉が終わる。

 「おいお前、今度この場所に、今度はお前が出向け。

 1人でも行けるか?」

「は、はい…。」

 何を隠そう、俺は方向音痴だ。

 一応パワハラ上司から地図はもらったが、その場所に俺は果たしてたどり着けるのか…不安だ。

 

 三

 「あとお前、コンプライアンス(法令遵守)について確認してるか?

 最近は国によって法律が変わるから、よくチェックしとけよ!」

「は、はい…。」

さすがグローバルな取引をするだけのことはある。しかし、俺は法律は苦手だ。法律の文面を読んでも何も頭に入ってこない。

 『俺は、この業界でいったい何ができるんだろう…?』

 いや多分この業界でなくても、俺は役に立たないだろう。


 四

 …しかし俺は、何のために働いているのか?

 金のため?それは正しい。

 しかしそれだけだと虚しい気も最近する。

 俺のパワハラ上司は、

 「お前の向こうには、商品を待っているたくさんの顧客がいるんだぞ!」

とよく言う。

 しかし俺は思う。この仕事は社会貢献になっているのか?それは顧客のためなのか?と。

 いやそうではない。むしろ逆だ。

 これだから嫌なんだよ。【麻薬取引人】なんて。 (終)


 次のキーワード、【麻薬】or【薬】

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