盤上、この小説では囲碁だが、その上には人生というものが少なからず反映されるのであろうと思う。将棋しかり、チェスしかり、舞台を盤上だというのなら歌や演劇などもそれらには含まれるのかもしれない。絵画なども、キャンバスの上に描くという点では似ている。
つまらない、色のない世界を生きる主人公は、一人の女性、紀子と出会う。それは運命的な出会いのようにも思えたし、偶然の重なった結果のようにも思えた。
とても静かに、そして碁を通して語られる、彼女と主人公の、盤上に描かれた黒白の人生論。碁を通して互いに惹かれあう様子を描いた描写は、すっと心に染み込んでいくようだった。
ラストは、読者に少なからず衝撃を与えることだろう。しかし、私は主人公を可哀想だなどと思ったりはしなかった。
主人公の人生を変えたであろう彼女との物語を、きっと主人公は大切に抱えて生きていくのだろう。主人公の盤上は、彼女の存在によって、きっと少しの変化をもたらしているのだろうと思う。
硬質で、でも少しやわらかく、後味のよい小説だった。ぜひ読んで欲しい。