届け私のメッセージ(3)
それにしても、と店主は聞いた。
「こんな進んだ時代に、直接話せないのは少し寂しくないですか?」
地球にいるならばどこでも直接会話できるのに、と。
「そうですね――もう我慢できないくらいだったんです。ここだけの話、このサービスがなかったら別れちゃうかも」
せきなは珍しく冗談を言った。
「お客さんのような綺麗な方にそんなことを言わせるなんて、バチが当たりますね」
店主は手元を見ながらもうちょっとだな、と呟く。
「でもね、ちょっと嬉しくもあるんです」
「なにがです?」
「こんな時代に文章なんて誰も送らないでしょう? もっと便利で感情が伝わりやすい道具がたくさんありますもんね。でも久しぶりに文章を書いてみると、なんだか――そう、あったかくてくすぐったいなあ、と思いまして」
「……わかりますよ。私もそれが好きで、この仕事をやっているようなものですから」
「さて、出来ました」
店主は端末をひょいと片腕で持ち上げると、せきなの目の前に画面を置いた。
「では最後にお確かめください」
せきなは細かい数字がたくさん表示された画面を覗く。
これであの人に言葉を伝えられる――。
そう思うと居ても立っても居られない気持ちになった。
そしてふと、せきなは画面上のある部分が気になった。
「この表示されている座標は、おおよそどの方角なのでしょうか」
「ああ、それはですね」
実際に見てみましょう、と店主はカウンターから出ると、そのまませきなを手招きして店外へ出る。
五十メートルほどゆるやかな勾配を登ると、丘の先端にたどり着いた。
黒く大きいエプロン姿と白くほっそりしたワンピースの二つのシルエットが、広大な夜の海にふわりと浮かび上がる。
「あちらの方ですね」
店主が指さした方向には、数えきれないほどの星がきらきらと輝いていた。
星が瞬くというものを、せきなは久しぶりに見た気がした。
こんなに星が綺麗だなんて、知らなかった。
あっちの方なのか、そう思うと、せきなの胸に熱いものが込み上げてくる。
そしてあることに気づいた。
偶然の一致に、せきなはクスッとする。
「どうしました?」
「ええ、だって同じだったものですから」
「同じ?」
「同じなんです。ちょうど三時の方角ですよ」
ああ、と店主は微笑み返す。
「ご主人もあっちで、星を見ているんですかね」
「ええ、あの人は星が大好きだから」
そうして二人はしばらく、星を眺めていた。
どの星にあの人がいるのかはわからない。
でも。
せきなは祈った。
ちゃんと届いてよね、と。
三時の方角に向かって、せきなは祈った。
届け私のメッセージ 西秋 進穂 @nishiaki_simho
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