届け私のメッセージ(2)

「さて、今日はどうします?」


店主の低く太い声が響いた。


せきなはその口ぶりがおかしくて吹き出しそうになった。

これではまるで美容院かなにかだ。


流れるような髪をひとつ撫でると言った。


「そうですね、明日の三時に届くように一通だけ、この内容でお願いします」

スティック状の媒体をカウンター越しに手渡す。


店主はそれをまるで自分の宝物に触れるかのように、大きな手で包み込んだ。

「確かに受け取りました。では設定しますね」






せきなは設定作業を待ちながら、このレトロな喫茶店風の雰囲気を満喫していた。


なによりこの木製のカウンターと、切株をそのまま持ってきたかのような無骨な椅子がいい。

こういう自然の素朴さがせきなの機微に触れた。


「久々のお客さんなんです」

端末を忙しなくいじくりながら、店主が話しかける。


せきなとしては久々というのが意外だった。

確かに立地は良くないが、このサービスは珍しいし、それに格安ときている。


「なんででしょう、メッセージを送りたい人は少ないのでしょうか?」


「安くし過ぎたのが裏目に出たのかもしれません。皆さんは何かあるんじゃないかと疑われるんですよ」

人懐っこい笑顔で笑う。


そんなことを思いもしなかった自分は世間知らずなのだろうか、とせきなは内心恥ずかしく思った。


「ご主人はいつ頃出発されたのですか?」

「半年前です」


出発してしまってからは何の連絡もとれていない。

彼の仕事には、旅立ってから半年間は連絡禁止という業務規程があるためだった。


「そうですか、半年前……おや、時間指定とは珍しい」

店主が大袈裟に眉を上げた。


せきなは冷めてきたコーヒーを飲みながら、それもそうか、と心の中で呟いた。


これからメッセージを送るのはせきなも知らない、どこか遠くの星。

向こうは宇宙空間なので、朝や夜といった時間感覚は希薄かもしれない。

それに時間指定したところで、昔に流行した電子メールのようにいつでも開封可能なのだ。


「なにか意味があるのですか?」


久しぶりの客というのは本当のことのようで、店主は次々と質問した。きっと話すことが楽しいのだろう。


対するせきなは本来、あまり気さくな性格ではない。

こんなにもペラペラと話してしまうのは、きっとこの店の――店主の雰囲気のせいだろう。


「彼がプロポーズしてくれたのが、明日の三時なんです」

もう五年前の話ですけれど、と頬を染めながら付け加えた。


「記念日ですか。わかりました。三時、三時……と」

素敵ですね、と言いながら店主の操作は続く。


機械に疎いせきなは、どんな作業をしているのかよくわからない。

はやる気持ちを抑え、子供を見守るような瞳でそれをじっと眺めていた。

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