第一章

焼き付けられたもの

 まゆ子はこの春、高校を卒業した。

もうすぐ社会人1年生としての新しい生活が始まる。


長年一緒に暮らした母方の祖母の家から巣立ち、勤務先の会社があるA市のアパートに引っ越す予定だ。


母を亡くしてから祖母は私を養女として受け入れ、大切に育ててくれた。



祖母がいなければ今の自分はいない。


母を殺した父親に対する憎しみが私の心を支配していたことだろう。


もちろん今でも

父親を憎んでいる。


私は母が殺された時のことを鮮明に覚えている。


母が殴られた時、私はそこにいた。


母は叫んだ。


「まゆ子、おばあちゃんの家に行ってなさい!」


祖母の家までは子供の足で走って3分もかからなかったはずだ。


すぐに助けを呼びに行くべきだった。


しかし私はパニックに陥っていた。


私は玄関を飛び出すとベランダに回り込んだ。


そこから両親の姿が見える。


母は殴られる度に壁に体を打ち付けられていた。


鼻と口から血が流れていた。


その血は父親の薄いグレーのシャツに飛び散っていた。


やがて母が倒れ込んだ。



私は我に返った。



はやく助けを求めなければ!!



私は走った。



でも遅かった。



母は父に殺された。


死因は外傷性ショック死だった。




刑期を終えたあの男は今、どこで何をしているのだろう。

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