第112話 虱(しらみ)

 金田一

「さーて、お次ば誰かな?」


 司会

「初登場のしらみですね。それではしらみさんどうぞ」


 しらみ

「はい、よろしくお願いします」


 司会

「あのー、全然見えませんけれども、一体どこにいるんですか」


 しらみ

「あなたの前のテーブルの上にいますけれども、おそらく小さすぎて見えないのでしょう」


 司会

「この辺にいるんですね」


 しらみ

「はい、そこにいると思って気にせずに話しかけてください」


 司会

「わかりました。ところで今日は何を提訴されにてきましたか?」


 しらみ

「はい今日の提訴は『しらみつぶしで探す』をお願いします」


 司会

「これはよく刑事物なんかで使いますよね。『この近辺を徹底的にしらみつぶしで探せ』などと銭形警部なんかがよく言いますね」


 しらみ

「そうなんです。ところで司会さんに質問ですけれども私たちしらみを潰したことありますか?」


 司会

「いや、生まれてこのかた全くないですね。と言うよりしらみさんそのものを見たことがありません」


 しらみ

「ですよね。ことわざとはそもそも『人にわかりやすく伝える例え』として使用されますよね」


 司会

「もちろんそうです」


 しらみ

「しかし1回もやったこともないし、そもそも見たことも無いものを『例えに使う』のはどうかなと思います」


 司会

「なるほど。という事はこのことわざからの辞退ですよね」


 しらみ

「はい、そうです。もう私たちの存在自体が希薄になってきたので、ここらでお役御免かなと思っています」


 司会

「わかりました。じゃあ金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「そうですね、私たちの子供の頃はしらみつぶしというのが実際にありましたし、太平洋戦争が終わったときにはDDTなんて言うしらみ用の白い薬を頭からかけられたような話もありました」


 司会

「なるほど、割としらみは身近な存在だった訳ですね」


 金田一

「そうです。しらみはとても小さく、人の体につくと取るのが大変で、他人のしらみを取る場合は、頭の端から、それこそ髪の毛一本一本を調べるようにしてつぶしていきました。その退治する様子から『かたっぱしから漏れや見逃しがないように調べたり、探したりすること』の例えになりました」


 司会

「しかし衛生環境がよくなり、しらみさん自体がいなくなったので、今回はことわざから辞退されたいとの事です」


 金田一

「わかりました。では明日からは『気泡緩衝材(プチプチ)をつぶすように探す』とします」


 司会

「き、気泡緩衝材ですか?」


 金田一

「はい、1957年にアメリカ人によって発明された壊れ物をラップする緩衝材です。日本では別名をプチプチと言われています」


 司会

「はい、私も暇な時にはよくプチプチしてます。しかし実際にはことわざ使用時は『気泡緩衝材』と『プチプチ』のどちらを使うのですか?」


 金田一

「はい、大人は気泡緩衝材、子供はプチプチで結構です。世代によって使い分けしましょう」


 司会

「なるほど、世代によって選べるわけですね。しらみさんいかがですか?」


 しらみ

「はい。いい後任が決まりましたから満足です。来てよかったです。今日はありがとうございました」











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