第111話 キリギリス
金田一
「はい、お次はだれかな?」
司会
「はい、初登場のキリギリスです。それではキリギリスさんよろしくお願いします」
キリギリス
「初めまして、よろしくお願いします」
バイオリンを抱えたキリギリスが入ってきた。
司会
「バイオリンとキリギリスの組み合わせと言えば一つしかありませんが一応お尋ねします。今日の提訴は何ですか?」
キリギリス
「はい、お察しの通り『アリとキリギリス』を提訴しに来ました。はい、これがアリさんからの委任状です確かめてください」
司会
「委任状に不備はありませんでした。この言葉は子供の頃に聞いて、今でも頭に残っていますね。夏の間、アリたちは冬の食料を蓄えるために働き続け、キリギリスはバイオリンを弾き、歌を歌って過ごす話ですね」
キリギリス
「はい、そうです。でも寓話ではなんか私たちが働かなくて楽をしているイメージですよね」
司会
「え、違うんですか?話の続きは、やがて冬が来て、キリギリスは食べ物を探すが見つからず、最後にアリたちに乞い、食べ物を分けてもらおうとするが、アリは『夏には歌っていたんだから、冬には踊ったらどうだい?』と食べ物を分けることを拒否し、キリギリスは飢え死んでしまう。という悲しいお話でしたよね」
キリギリス
「はい、確かに昔はそうだったんですが、昨今では庶民がバイオリンを習う時代になりまして、私はバイオリンを教えることで生計を立てています。むしろ今は『冬に食べ物がない』と言ってくるアリに食糧を恵んでいる始末なんですよ」
司会
「それはすごいですね。ということはキリギリスさんは、今ではバイオリンの先生をやられてるんですか?」
キリギリス
「はいそうです、生徒も全国的にかなりの数に増えましたから、そろそろ上場も考えております」
司会
「えー、じゃあキリギリスさんは今は勝ち組なんですか?」
キリギリス
「はい。ついでに言わしてもらいますけれども、昔から持っていたストラディバリウスって言うバイオリンが、この前オークションで5億円で売れました」
司会
「えー!超セレブじゃあないですか!うらやましい限りです」
キリギリス
「さらに言わしてもらいますけれども、この寓話は何かアリさんの方が『非常に勤勉で見習わなければならない』と言う意味合いを持っていると思いますが、実際にはアリさんの中で働いてるのは2割しかいないんです。後の8割は適当に遊んでます」
司会
「えー、私はアリさんはてっきり働き者だと思ってました!」
キリギリス
「だから、それは2割のアリさんだけですって」
司会
「大変だ!金田一先生、助けてください!」
金田一
「わかりました。北海道大学の長谷川先生によると働くアリと働かないアリの差はたしかにあるみたいですね。これを『働きアリの法則』ないしは『パレートの法則』(80:20の法則)といいます」
司会
「ではキリギリスさんの提訴の内容は事実なんですね?」
金田一
「はいそうです。働きアリのうち、よく働く2割のアリが8割の食料を集めてきます。つまり働きアリのうち、本当に働いているのは全体の8割で、残りの2割のアリはサボっています」
キリギリス
「でしょう?やっと事実が解明されて、私たちの冤罪を晴らしていただける時が来たと思いますがいかがでしょうか?」
金田一
「わかりました、それでは明日からこうしましょう。『世間は誰でもできる肉体労働だけではお金がたまらない、得意な分野で仕事をした方が良い』と言う意味にします。同意語『芸は身を助ける』ですね」
司会
「いいですね。何かオンリーワンの『自分の才能を打ち出して世間を渡っていきましょう!』と言う強いメッセージ性があります。キリギリスさん、いかがですか?」
キリギリス
「はい。疑いも晴れましたから満足です。来てよかったです。今日はありがとうございました」
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