第110話 ひよこ
金田一
「はい、お次は誰かな?ドンドンいきましょう」
司会
「はい、次はひよこですね。初登場です。それではひよこさん、どうぞお入り下さい」
ひよこ
「はじめまして。今日はよろしくお願いします」
司会
「はい、ひよこさん。早速ですが今日はどのことわざを提訴されますか?」
ひよこ
「はい。やはり『まだまだひよっこです』を提訴したいです」
司会
「これもよく使いますね。会社の新入社員の挨拶時などに『まだ一人前ではない、その道に入ったばかりである』という意味を込めて使いますね。まあ、未熟者や新人、若輩者を指して言います」
ひよこ
「そうなんですがこの場で一言、意見を言いたいのです」
司会
「何がご不満なんですか?ひよこさんは生まれたばかりで文字通り『新人』じゃあないですか?」
ひよこ
「まずはこの紙を見てください」
1枚の紙を司会に差し出すひよこ。
司会
「何ですか?これは?」
ひよこ
「各動物の生まれてから成人になるまでの期間を表にしたものです。成人の定義は『生殖能力が備わる事』としています。私の欄を見てください」
司会
「ひよこ、ひよこと。ありました3ヶ月と書いてますね」
ひよこ
「では人間はいかがですか?」
司会
「えーっと人間はっと。15年です」
ひよこ
「お分かりですか?今はひよっこですが大人になるまでが異常に早いんです」
司会
「なるほど。すると今日の提訴内容はこのことわざからの辞退ですね」
ひよこ
「動物の中でも成長が早い我々が『ひよっこ呼ばわり』されることが気に食わないんです。是非意味を変えて欲しいのです」
司会
「わかりました。金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「はい、たしかにそうですね。ひよこはだいたい2カ月くらいで大人の羽根が生え始め『ピヨピヨ』から『コッコ』と言いだします。そして3カ月くらいで『コケコッコー』と鳴き、ほぼニワトリになります」
司会
「あ、私も昔小学校時代にニワトリ係をやったので、ひよこの成長の早さに驚いたことがあります」
金田一
「一方で犬はサイズにより異なりますが10-24ヶ月で大人になります。霊長類のサルは離乳するのに1年、大人になるのに4年かかります。我々人間を含む霊長類の成長が遅いのは体の発達よりも先に脳の発達を優先させるからだと言われております」
ひよこ
「ご理解いただけてうれしいです。要するに我々の方があなた達よりも早く一人前になるんです」
金田一
「わかりました。それでは意味を変えましょう。『まだまだひよっこです』は『今は未熟者だが、すぐに先輩たちに追いつきますから覚悟して下さい』と言う意味にします」
司会
「あ、いきなり過激で挑戦的な言葉になりましたね」
金田一
「はい体育会系のクラブなんかで新人がこの言葉を使ったら、いきなり先輩から目をつけられる事はまず間違いないでしょう。逆に言えばそれぐらいの自信があると言う証佐になります」
司会
「いきなり敵に回す訳ですから、人生の中で滅多に使えない『非常にレアな挨拶言葉』になるわけですね」
金田一
「そうです、この言葉を使う場合はかなりの覚悟が必要です」
司会
「ひよこさん、いかがでしょうか?
ひよこ
「いいですね、なんかいきなり弱っちい言葉がグレートな意味になりましたので感激です。今日はありがとうございました」
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