第107話 猫 4回目

 金田一

「はい、お次は誰かな?」


 金田一

「はい、次は猫ですね。これまた4回目ですよ、皆さんよほどここが居心地がいいんですかね。猫さんお入り下さい」


 猫

「はい何度も申し訳ありません。また今日もきました」


 司会

「はい大丈夫ですよ。遠慮なさらないでください。さて今日は何を提訴されますか?」


 猫

「はい、何といっても『猫の額』ですね」


 司会

「あ、狭い例えに使いますよね。例えば『新しい家を買ったんだが、庭が猫の額のようなんだ』などと使いますよね」


 猫

「そうなんです。確かに自分で言うのもなんですけども、私の額はそんなに大きいとは思っていません」

 司会に自分の額をチラッと見せる猫。


 司会

「そうですよね。小さいものの例えになるぐらいですからやはり小さいですね」


 猫

「しかし私たちよりも小さい額ってたくさんあると思うんです。ネズミも小さいし、リスも小さいと思います」


 司会

「たしかに」


 猫

「だから、なんでもっと小さい額もあるのに我々が『狭いもの代名詞』となったかをはっきりさせて欲しいのです」


 司会

「わかりました。そういうことなんで金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「小さいとか少ないとかの『量』を表すのに『すずめの涙』とか『ノミの心臓』とかいろんなことわざがあります。その中でも面積の狭さを表す例えが『猫の額』になります。歴史は古く、300年前の御前義経記に『下関は猫の額ほどある所なれども、諸方の入込む湊にて』と書かれています」


 司会

「なるほど結構古くから使われていたんですね。でもそもそも『額』ってどこからどこの部分なんでしょうね」



 金田一

「辞書で引くと『眉毛と髪の毛の生え際の間をさす』となっています。もちろんこれは人間の話です」


 猫

「私たちは元々全身が毛で覆われていて、眉毛なんだかヒゲなんだか生え際なんだかよくわかりません!」


 金田一

「そうです。ですからいまいち『猫の額』という定義はハッキリとはしていないんです」


 司会

「そんな、いい加減なことでいいんでしょうか?」


 金田一

「わかりました。それでは明日からはこのことわざの意味を変えましょう」


 司会

「どう変えるんですか?」


 金田一

「意味は『境界線がハッキリしないがためによくわからないもの』の例えにします」


 司会

「なるほど。小さな商店なんかは『店の利益』と『家計』とごっちゃになってますから、そういう場合に使うわけですね」


 金田一

「そうです。その場合は『猫の額経営』と呼びましょう。同義語としては『公私混同』が近いかもしれませんね」


 猫

「なんかよく分かりませんが流れから察するに、『悪い例え』になりそうですね。少し心配です」


 金田一

「大丈夫です。スポーツの世界でも『ライン上ギリギリ球が入ったか入ってないかわからない時』なんかも『今のサーブは猫の額でしたね』とか使いますから気にしないでください」


 猫

「あ、それなら安心しました。来年の東京オリンピックでは結構使われそうで今から楽しみです。今日はどうもありがとうございました」

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