第104話 鬼子母神

 金田一

「はい、お次の方」


 司会

「えらい事です!先生。恐れ多いことにまた神様が来てますよ」


 金田一

「神様にもたくさんいます。誰がいらっしゃってるんですか?」


 司会

「鬼子母神です。それでは鬼子母神さんどうぞお入り下さい」


 鬼子母神

「はじめまして。よろしくお願いいたします」


 司会

「鬼子母神さんは確か子供と安産の神様でしたよね。本当に見るからに優しいお顔ですので私のイメージ通りです」


 鬼子母神

「ありがとうございます」


 司会

「さて、鬼子母神さん。今日はどのことわざを提訴されに来ましたか?」


 鬼子母神

「はい、やはり『恐れ入谷の鬼子母神』です」


 司会

「あ、相手の言うことに『これはさすがに参りました!』と降参した時に使いますね」


 鬼子母神

「はい。『おそれいる』と『入谷(東京都台東区)の真源寺に祀られる鬼子母神』を掛けたものと聞いています」


 司会

「では、今日の提訴は一体何でしょうか?」


 鬼子母神

「はい、私は入谷に長年住み続けていますが有名なのは何も鬼子母神だけではないことを言いたいのです」


 司会

「なるほど。つまりこの言葉からの辞退ですね」


 鬼子母神

「はい、そうなります」


 司会

「わかりました。金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「私は個人的には鬼子母神さんの誕生の由来については非常に興味があります。鬼子母神さんはかつて500人の子の母であったが、これらの子を育てるだけの栄養をつけるために人間の子を捕えて食べ、多くの人間から恐れられていました」


 司会

「え?そんな殺人鬼のような残酷な過去があったんですか!」


 鬼子母神

「お恥ずかしいかぎりです。若気の至りでした」


 金田一

「それを見かねたお釈迦様は、鬼子母神さんが最も愛していた末子を隠しました。半狂乱となったあなたは世界中を7日間駆け抜け探し回ったが発見するには至らず、助けを求めて釈迦に縋ることとなりましたね」


 鬼子母神

「はい、聞いていて恥ずかしいです」


 金田一

「そこでお釈迦様は、『多くの子を持ちながら一人を失っただけでお前はそれだけ嘆き悲しんでいる。それなら、ただ一人の子を失う親の苦しみはいかほどかがわかるだろう』と諭しました」


 鬼子母神

「はい、本当にあの時は改心しました」


 金田一

「お釈迦様は『では戒を受け、今日からは人々をおびやかすのをやめなさい。そうすればあなたは仏法の守護神となり、また、子供と安産の守り神となります』と言いました」


 司会

「いい話ですね。なんか泣けてきました」


 鬼子母神

「だからお釈迦様に許されたとは言え、『子供を食べる』という悪行を続けた私が何百年も入谷の代表にされていることが正直、心苦しかったんです」


 金田一

「わかりました。それではこうしましょう。これからの100年間は『恐れ入谷の朝顔まつり』にしましょう」


 司会

「え?いきなり朝顔祭りですか?」


 金田一

「はい、朝顔祭りは毎年7月の6.7.8日の3日間行われる入谷の名物です。太平洋戦争の終戦の次の年から『戦後の復興』を願って続いている祭りで60の朝顔業者と90の露天が並び、3日間で40万人も観光客が来ますので鬼子母神さんの後任には適格かと思います」


 司会

「いいですね、なんか地元の歴史あるお祭りがそのままことわざに反映されて。鬼子母神さんいかがですか?」


 鬼子母神

「はい、朝顔祭りなら納得します。何も入谷は鬼子母神だけが有名じゃないですので、もっと幅広く全国に入谷の町を知ってもらえたらなと思ってます。今日は本当にありがとうございました」

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