第101話 ネズミ 2回目

 金田一

「さて、お次は誰かな?」


 司会

「次はネズミですね。2回目の登場です、それではネズミさんどうぞ」


 ネズミ

「こんにちは、今日もよろしくお願いします」


 司会

「こちらこそお願いします。早速ですがネズミさん、今日の提訴は何でしょうか?」


 ネズミ

「やはりなんといっても『窮鼠猫を噛む』ですね」


 司会

「あ、それでは猫さんからの委任状が必要ですが」


 ネズミ

「はい、ここにあります」

 ネズミから差し出された紙を確認する司会。


 司会

「はい、委任状の内容は問題ありませんので、提訴は有効とします」


 ネズミ

「ありがとうございます」


 司会

「一般には『弱いものでも追い詰められたら死にものぐるいで強力な力を発揮する』と言う例えですがなぜこの言葉が不満なんですか?」


 ネズミ

「司会さんは昭和30年代に出た『トムとジェリー』はご存知ですよね」


 司会

「もちろん知ってます。私の世代はあのアニメを見て育ったようなものです」


 ネズミ

「私たちネズミの世界でも、若い世代はあのアニメが定着しています。しかし内容はどう見ても『窮鼠猫を噛む』と言うような生易しいものじゃないですよね」


 司会

「そうですよね。毎日ジェリーは余裕でトムをコテンパンにしてますね。毎回見てたらむしろ追い込まれているのは猫のトムですよね」


 ネズミ

「そうなんです。ストーリーでは56回トムは紙のようにペラペラになったりして死んでいます、だから超破壊的なジェリーの暴れぶりを見て、若い連中はこのことわざそのものがイメージできなくなってきてるんです」


 司会

「なるほどよくわかりました、かなり深刻ですね。しかしアニメの影響は大きいですね。金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「私も子供の頃はトムとジェリーをよく見ました。1964年にスタートしたアニメですが、全く『ネズミ取りの仕事』の役に立たないトムはジェリーだけでなく飼い主には怒られるわ、ブルドックにはやられるわ、むしろ可哀想で応援した位ですね」


 司会

「そうですね。弱い立場のネズミのジェリーの方が断然強かったですからね」


 ネズミ

「はい。だから『窮鼠猫を噛む』と言うのはもう完全に逆転現象が起こっていると考えます」


 金田一

「やはり50年以上続いたアニメの影響は大きいですね。分りました。それで明日から『窮猫何度もネズミに殺される』としましょう」


 司会

「あ、非常にアニメに忠実ですね。よく死にますからね」


 金田一

「はい、これはもう見ての通りだと思います。トムの殺され方もいろいろバリエーションがありまして、火攻め、水攻め、電撃、圧死、細断、ミンチとやりたい放題です。爆死なんかもありましたね。ネズミさんこれでいかがでしょうか」


 ネズミ

「はい、これなら若いネズミにも納得して貰えると思います。今日はありがとうございました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る