第97話 馬 4回目

 金田一

「さて、お次は誰かな?」


 司会

「次は馬ですね。なんと4回目の登場になります。それでは馬さんどうぞ入りください」


 馬

「こんにちは。今日はよろしくお願いします」


 司会

「こちらこそよろしく。前回は『どこの馬の骨か分からない』での登場でしたよね」


 馬

「はい。今回も実は同じサブネットネタなんですけどもいいですか?」


 司会

「はい。早速ですが何を提訴されますか?」



 馬

「ズバリ『当て馬』ですね」


 司会

「よく使いますよね。企業が発注をすでに決めているのに他の会社に『相見積もり』を出させたりするときに使いますね」


 馬

「そうです。また選挙でも当選は狙わずに、相手方の票を減らすために立候補して邪魔をすると言う意味で使われます」


 司会

「要するに『本気ではない』と言う事ですね。でもこの言葉のどこが気に入らないんですか?」


 馬

「どこが気に入らないという以前に、これはもう人権侵害じゃないですか?」


 司会

「穏やかじゃないですね。人権侵害とはどういう意味ですか?」


 馬

「考えてもみてくださいよ。『当て馬』っていうのはサラブレッド用語で、血統の良い子馬を残すために、メス馬に対して精子の受け入れ態勢万全とするために用意される馬のことなんです」


 司会

「そう言う意味だったんですか?」


 馬

「ギンギンとそそり立ったイチ物をメス馬に見せて『さあこれから本番』という時に本命のサラブレッドとサッと交代させられます。この屈辱感がわかりますか?」


 司会

「はい!私も男なので痛いほどわかります!人間界のAV男優でもそんな酷い役はありませんね」


 馬

「でしょう?理解いただいて嬉しいです」


 司会

「それでは馬さんの提訴内容はこの言葉の変更ですか?辞退ですか?」


 馬

「この言葉だけでなくこの非人道的な行為そのものの抹消をお願いします」


 司会

「わかりました。かなり悲壮な提訴ですね。金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「はい『当て馬』とは、馬の種付けの際にメス馬の発情を促す行為や、そのためにあてがわれるオス馬自体を指す通称です。別の用語としては試情馬(しじょうば)ともいいます」


 司会

「いや・・・試情馬もまた酷い言葉ですね」


 金田一

「残念ですか、当て馬は先ほどの商用語や選挙用語に定着しています。さらにスポーツ界でも柔道などの団体戦において、自チームの実力の高い選手で確実に白星を稼ごうとする際、敢えて相手チームの実力の高い選手と対戦させられる実力の低い選手のことに使われてますから抹消は無理です」


 馬

「そんな」


 金田一

「さらに追い討ちをかけるようで申し訳ありませんが、これはサラブレッド界のみの言葉なので牛や犬のように他の動物での替えが効ません」


 馬

「そんな」


 金田一

「しかしこの非人道的な行為に甘んじている馬さんの気持ちを考慮します。『当て馬にも五分の魂』でいかがでしょうか?」


 司会

「あ、『一寸の虫にも五分の魂』の馬版ですね」


 金田一

「はい、屈辱的な仕事をしている人にも崇高な魂はあると言う例えでいかがでしょうか?」


 司会

「いかがですか?馬さん?」


 馬

「抹消が希望でしたが、リスペクトいただいているのでなんとか納得します。ありがとうございました」

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