第96話 アワビ


 金田一

「はいお次は誰かな?」


 司会

「次はアワビですね。初登場です。アワビさんどうぞ」


 アワビ

「初めまして、よろしくお願いします」


 司会

「こちらこそよろしくお願いします。早速ですがアワビさん、今日の提訴は何でしょうか?」


 アワビ

「やはり昔から言われている『磯のアワビの片思いです』ね」


 司会

「あ、よく使いますね。長いあいだ相手を思うばかりでアクションを起こさない人のことを指します。恋に不器用な方を指すあまり良い言葉では無いですね」


 アワビ

「そうなんです。なんか私たちアワビが『恋愛失格者』の代名詞になっていますよね」


 司会

「それはアワビさんは、アサリやシジミのように二枚貝ではないから、相手のピッタリの貝が無く、常に片思いの状態に見えるから仕方ないですよね」


 アワビ

「でもそれが真実なら、私たちは交配ができないから種の保存はできませんよね」


 司会

「はい、片思いでは結婚できないのですぐに絶滅しますね」


 アワビ

「ちょっとこの紙を見てください」

 アワビが1枚の紙を司会に手度した。


 司会

「何ですか?これは」


 アワビ

「私たちの世界も『婚活アプリ』がはやっています。毎日のようにネット上で相手を募り『オフ会』と称しては合コンをやっています」


 司会が紙に目を通す。

 ※

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 司会

「すごいですね。このアプリを使うと素早く相手がすぐに見つかるんですか?」


 アワビ

「そうなんです。私もおかげ様で、先週登録しましたが、来月結婚式をあげます」


 司会

「凄いスピード感ですね。わかりました、という事は今日の提訴はこの言葉の意味の変更でよろしいですね」


 アワビ

「はいそうです」


 司会

「と言うことです。金田一先生よろしくお願いいたします」


 金田一

「わかりました。アワビさんの語源は二枚貝でないため『逢わないでわびしい』の略に由来する説があります」


 アワビ

「逢わないどころか、今では毎日結婚を前提とした合コンをしています」


 金田一

「そうなんですか。またこのことわざの由来は万葉集の『伊勢のあまの朝な夕なにかづくとふ、 アワビの貝の片思いにして』から来ています」


 司会

「それが先生、そんな悠長な時代ではなく今では婚活ラッシュらしいですよ」


 金田一

「なるほど。時代は変わりましたね。それでは『磯のアワビは結婚ラッシュ』にしましょう」


 司会

「いいですね。本当のことですから。で、意味は何ですか?」


 金田一

「意味は『顔や姿や風体から人の恋路を詮索するのはいい加減もうやめよう』と言う戒めですね」


 司会

「なるほど、よく街を歩いていると不細工な顔した人がきれいなお姉さんを連れている場合がありますよね。いわゆる『美女と野獣』のカップルです。これに遭遇した場合に使うんですね」


 金田一

「そうです。人間界にも当然『戒め』として使われると思います」


 司会

「と言う事ですがアワビさん、いかがでしょうか?」


 アワビ

「はい、満額回答をいただきました。今日はどうもありがとうございました」



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