第94話 タイ
金田一
「はい、次は誰かな?」
司会
「次はタイですね。初登場です。タイさんどうぞ」
タイ
「はい、はじめまして。今日はよろしくお願いします」
司会
「こちらこそよろしく。さてタイさん、今日はどのことわざを提訴されますか?」
タイ
「はい。ズバリ言って『海老で鯛を釣る』ですね」
司会
「そうしたら共同提訴なのでエビさんからの委任状が必要になりますよ」
タイ
「はいここに準備してあります」
と紙を差し出すタイ。
司会
「はい中身は確認しました。今日の提訴は有効です」
タイ
「ありがとうございます」
司会
「このことわざはよく使いますね。少ないわずかな投資で、大きな利益を得ると言う、いわゆるローリスク・ハイリターンのことを指しますね」
司会
「はい、そうなんです。我々タイが大きなリターンに例えられる事は非常に嬉しいんですけれども、最近では私たちを釣るときに『ローリスクであるエビ』すらもつけてくれないようになりました」
司会
「と言いますと?」
タイ
「1980年以降から流行り出したバス・フィッシングで、餌をつけないルアーフィッシングっていうのが主流になったのです。いわゆる擬似餌です。ご存知ですか?」
司会
「あ、私も時々釣りに出かけますけれども、手が汚れたりしてなおかつ、つけにくい『生き餌』を餌にするよりも、確かにルアーのほうが手っ取り早いし汚れないから好きですね。あ、タイさん今日の提訴内容を教えてください」
タイ
「はい、タイの世界では『エビを食ったら地獄行き』と言うことわざがあります」
司会
「えー、そんなことわざがあるんですか?意味はなんですか?」
タイ
「要するに『釣り上げられる前のエビの食事が人生最後』だと言う事です」
司会
「なるほど」
タイ
「しかしルアーだと最後の食事すらさせていただけないって言う残酷なことになりますよね」
司会
「そうですよね。それはひどいですよね」
タイ
「これは人間で言えば、死刑囚が最後の晩餐にレストランの前に飾ってあるイミテーションのハンバーグを食べさせられる様子をご想像ください」
司会
「それはちょっと悲惨ですよね。死んでも死にきれませんね」
タイ
「ですからこのことわざを変更してほしいのです」
司会
「わかりました。という事ですが金田一先生よろしくお願いします」
金田一
「近年、タイ釣りで全国的に人気なのが『タイラバ』とか『タイカブラ』などと呼ばれるラバージグ(ゴム製の擬似餌)によるルアー釣りが主流になりました」
タイ
「はい、これらのルアーはエビのような『食べた感』が全くありません。つまり我々に『最後の晩餐』すら与えてくれない世の中になってしまいました」
金田一
「なるほど、事態は深刻ですね。先ほどまではこのことわざを『ルアーでタイを釣る』に変更を考えていましたが、多分これではタイさんは満足しませんね」
タイ
「はい、やはり死ぬ時は美味しいエビを食べてからにして欲しいのです」
金田一
「わかりました、明日からは『もう一度、エビでタイを釣ろう!』に変更します」
司会
「なるほど、釣り人に対してタイを釣る場合はルアーではなく昔のようにエビをつけろと言う意味ですね」
金田一
「そうです、今から死んでいくタイさんへの最後の花向けです。これを書いたポスターを釣り船や釣り人が集まる場所に目立つように貼るように指導します」
司会
「という事ですが、タイさんいかがでしょうか?」
タイ
「大満足です。これで釣られた友人たちも美味しいエビを食べて満足して皆様の食卓へ上っていくでしょう。ありがとうございました」
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