第93話 象

 金田一

「さてお次は誰かな?」


 司会

「次は象ですね。初登場です。それでは象さんお入りください」


 象

「こんにちは」

 巨大な象が会場内に入ってきた。


 司会

「さすがに大きいですね。先程のクジラさんには負けますが会場内に入るサイズとしては、1番大きいです」


 象

「今日はよろしくお願いします」


 司会

「こちらこそ、よろしくお願いします。早速ですが今日はどのことわざを提訴されますか?」


 象

「やはり『群盲、象を評す』ですね」


 司会

「あ、よく使いますね。『目の見えない人が何人集まっても断片的な情報しかなくて全体像がつかめない』と言うことですよね」


 象

「はいそうなんです」


 司会

「このことわざに何かご不満でも?」


 象

「はい、まずはこの紙を見てください」

 長い鼻で1枚の紙を司会に手渡した。


 ※


 近年、高齢者や障害者など、何かしらの不自由を抱える人々の課題を解決するテクノロジーが増えている。

 イスラエルのベンチャー企業は、視覚障害者向けに画像認識技術を活用した新しいデバイスを開発。これは、手持ちのメガネの柄の部分にデバイスを装着し、読みたいテキストや見たいものを指でさし示すと、デバイスがその画像を瞬時に読み取り、音声で情報を読み上げるというもの。ズーム機能もあり一般人よりも高解像度で識別が可能。


 司会

「あ、」


 象

「ね、すごい技術でしょう?目の不自由な方が、この技術でワタシたち象を見た場合一般人よりもかなり詳細に分析されると思います」


 司会

「なるほど。まるで私の大好きなサイボーグ003みたいですね」


 象

「ですから、時代はもう目が悪い方が必ずしもハンディキャップがない時代に入ったと言えますので、このことわざを見直して欲しいのです」


 司会

「わかりました。金田一先生よろしくお願いします」


 金田一

「このことわざは『数人の盲人が象の一部だけを触って感想を語り合う』というインド発祥の寓話です。しかし時代は変われば変わるものですね。特に最近のITとAI技術の進歩には目を見張るものがあります。正直、ことわざの世界がこの変化についていくのが困難な時代になりました」


 司会

「今後は悠長な『100年に一度の見直し』では間に合わなくなりますね」


 金田一

「そうですね20年前になかった技術が今はもう全家庭に普及している時代ですからね。加速度を感じます」


 象

「そこをなんとか、うまく変更できるでしょうか?」


 金田一

「ではこうしましょう。明日からは『群盲ほどよく象を評す』にしましょう」


 司会

「なるほど目の悪い方の方が、一般の我々より正確で情報量が多いと言うことですね」


 金田一

「そうです。かつてはハンディキャップを持った人たちだったがAI技術の発展のおかげでその能力は一般人よりもはるかに超えたと言う事の例えにします」


 司会

「あ、これはパラリンピックで補助器具をつけた方の方が一般アスリートよりもいい記録が出る場合と同じですね」


 金田一

「そうですね。そのような時に使われます」


 司会

「いかがでしょうか?象さん」


 象

「大満足です。ハンディキャップがある方がどんどん世の中で活躍できる世界をイメージさせますね。今日はありがとうございました!」


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